第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD4] 高齢社会に向けた病院前救急診療活動の現状と展望

2019年10月5日(土) 14:40 〜 16:30 第2会場 (2F コンベンションホールB)

座長:伊藤 敬介(高知医療センター), 福田 ひろみ(徳島赤十字病院 ER)

[PD4-6] 病院前救急診療の目的を改めて考える ~プレホスピタルケアの向かう先はどこか~

小橋 大輔 (日本赤十字社 前橋赤十字病院 高度救命救急センター 集中治療科 救急科)

病院前救急診療の目的は「早期医療介入」「早期搬送による決定的治療までの時間短縮」である。ドクターヘリ(以下、ヘリ)、ドクターカー(以下、カー)による現場への医療スタッフ派遣は、救急救命士では不可能な処置を現場で前倒しして実施することを可能とし、ドクターヘリ(以下、ヘリ)の機動性・広域性は、地域では完結できない医療を提供可能な病院に患者を集約することを可能とした。

しかし、基地病院から近距離の事案では、ヘリによる病院前診療はランデブーポイントの安全確保に支援隊の到着を待たねばならず、かえって早期医療介入・決定的治療の妨げになる可能性がある。この問題を解決する一案として、ヘリとドクターカー(以下、カー)の使い分けが挙げられる。群馬県前橋市ではヘリ、カーの基地病院である当院からおよそ9km範囲をカーで、それ以遠はヘリを用いることで、医療介入開始時間、病院到着時間が短縮され、さらに出動1件当たりの人的・経費的負担が軽減された。

また、群馬県では現在4台のカーが運用されているが、消防機関がヘリ・カーを要請する際には地理的要素によって、あらかじめ決められた優先順位でヘリ、カーを要請できる体制を構築し、さらにはヘリ・カーの連携事案では共通の無線波の使用、無線使用不可時の連絡方法の確立を行い、出動医療班が常に情報共有ができる体制を整備した。このように、県全体でヘリとカーの運用方法の共通化を行うことにより、スムーズな医療活動を行うことが可能となっている。

一方、高齢化社会が進む中で、超急性期医療としての病院前救急診療だけではなく、慢性期医療に関わる事案も増えつつある。確かに、重症患者については早期医療介入、早期医療搬送の重要性は変わらない。しかし、実際診療を行っていると「急変時DNAR」「BSC」であった、という事案も少なからず存在する。このような事案を遠隔病院や急性期病院に搬送することは家族の負担や病院機能を考慮すると有益性に乏しく、この場合、先に述べた「早期」医療搬送は必ずしも必要ではない。その地域で「完結できる」「完結させるべき」医療があることは事実であり、そのような場面に遭遇した時に必要なのは慢性期医療についての知識・経験である。残念なことに病院前救急診療に関わる医師は慢性期医療についての知識が乏しいことが多く、その際に重要な役割を果たすのは看護師である。

本口演では群馬県における病院前救急医療体制の変遷、早期医療介入達成のための取り組みを紹介し、近年特にドクターカー事案で増加している「看取り」に関する事案を例に、プレホスピタルナースのあるべき姿について考察する。