第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD5] 救急医療におけるタスクシフト~新たな力の創造~

2019年10月5日(土) 14:40 〜 16:30 第3会場 (2F 中会議室201)

座長:山勢 博彰(山口大学大学院医学系研究科), 芝田 里花(日本赤十字社和歌山医療センター)

[PD5-2] 外傷初期看護ガイドラインの構築と教育の実績から救急分野のタスク・シフティングを探る

佐藤 憲明 (日本医科大学附属病院)

医療界では、加速する超高齢化社会問題と、医療の地域格差による歪みの是正に加えて2019年4月に施行された働き方改革関連法に基づく医師の労働時間短縮に向けた検討と取り組みが進められている。特に重視されているのが、医師から他職種に、他職種からさらに別の職種に、当該職種でなくとも実施可能な業務を移管し、当該職種がその資格を保有していなければ実施不可能な業務に集中する環境を整えるタスク・シフティングであえる。なかでも、フィジシャンアシスタント(PA)の導入や、特定行為研修の推進、周術期管理チームの導入が注目されている。一方、看護界では、従来看護の専門性を確立することを目的に専門看護師・認定看護師制度を発足させ、これまでに数万人の有資格者を誕生させたが、昨今ではナース・プラクティショナーの育成や看護師特定行為研修を開始した。また厚生労働省医療政策局や日本看護協会は、特定行為研修を修了した看護師を2025年までに2桁万人を育成するとの攻略を掲げた。だが、これらの事業のほとんどは、医師の労働時間短縮への施策の割合が大きく、看護の質の一定化と改善、さらには看護師の働き方改革を改善する抜本的な取り組みについての施策は乏しい。無論、医療の質の改善を目指すことは重要であり、技能の高い看護師を育成して、医師に代わって医行為を代行することでその役割を果たすことも期待される。しかし、医療の質の改善には、これらの事業の推進だけに注目するのではなく、我々が培ったことをより充実させ、時代が求める医療の在り方に相乗効果をもたらしていくことが必要である。
 本学会はこれまで、外傷初期看護ガイドラインをはじめとしてトリアージやファーストエイドなど、多くのガイドラインの作成とともに、これまでに数千人におよぶ救急看護師の教育を施してきた。10年以上に及ぶこの教育過程には、関連学会との整合性を保ち、医師や他職種にも認知され、医師を含む多職種の期待も大きい。医療におけるタスク・シフティングは、早急に取り組むべき重要課題であるが、目的を果たすためにも、本領域における標準教育の徹底と我々の業務を他職種への移管も検討する必要がある。さらに救急救命士など多職種との連携を果たす時代が間近に迫る中で、各々の有資格者が業務を独占するのではなく、職種間のスキルミクスやタスクシェアリングが、医療の質を保つための制度や教育が望まれている。
 本セッションでは、外傷初期ガイドラインの構築と運用に携わる経験から、外傷初期診対応に係る医療スタッフを想定したスキルミクスとともに救急医療分野のタスク・シフティングとタスクシェアリングについて考察する。