第21回日本救急看護学会学術集会

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パネルディスカッション

[PD6] 急性・重症患者の安楽とQOL向上を目指す苦痛緩和ケア~ホリスティックな視点で、生きる力を支える看護実践を考える~

Sat. Oct 5, 2019 9:00 AM - 10:50 AM 第4会場 (3F 中会議室301)

座長:遠藤 みどり(山梨県立大学 看護学部), 江川 幸二(神戸市看護大学)

[PD6-1] 離脱に難渋した人工呼吸器装着患者への安楽ケア

中村 祥英 (地方独立行政法人 静岡県立病院機構 静岡県立総合病院 看護部 ICU/CCU)

1.背景

 成人重症患者への浅い鎮静管理の有効性が報告されてから、当院でも鎮痛優先の浅い鎮静管理が主流となり、患者は覚醒したまま、もしくは容易に覚醒可能な鎮静深度で人工呼吸療法を受けている。浅い鎮静深度の患者は、周囲の状況を認知し、意思ある生活者として、その人らしく人工呼吸器離脱に臨み、その中で多様な苦痛を体験している。そして、それらの苦痛は、患者の病態だけでなく、療養環境とも相互に作用しながら、より複雑な形で医療者に表出される。また、重症患者の苦痛は、ICU入室中だけでなく、ICU退室後も長期に渡り患者の心身に有害な影響を与えており、患者の生きる力を消耗させ、全人的な回復を阻害する要因となっている。そのため、我々クリティカルケア看護師にとって、浅い鎮静レベルで療養する重症患者の苦痛緩和は重要な課題となっている。
 こうした状況において私たち看護チームは、重症患者の苦痛を全人的な視点から分析し、その人らしさを尊重した安楽ケアや患者の生きる力を支える家族力を引き出す家族支援を重視しながら、患者の早期回復とQOL向上を意図した看護を実践している。しかし、刻々と変化する患者の病態やストレスフルな状況で療養生活を継続する患者の個別の反応を適時適切に察知し、寄り添い続けることは容易なことではなく、試行錯誤しながら実践しているのが現状である。
 本セッションでは、人工呼吸器離脱と経口気管チューブ抜去に難渋したA氏への我々看護チームの安楽ケアを振り返りながら、クリティカルな状況にある患者の生きる力を支える看護実践とは何かについて皆様と共に考え、学びを深めたい思う。

2.事例の臨床経過

 A氏は、60歳代の男性で、肺がんに対し、右肺上葉切除+縦隔リンパ節廓清+上大静脈置換+気管形成術予定で定時手術を受けた。しかし、術中出血多量で、右肺全摘+縦隔リンパ節廓清+上大静脈置換術へ術式が変更され、術後人工呼吸器装着のままICU入室となった。(手術時間14時間、術中出血10515ml、輸血7800ml、術中体液バランス +7235ml)
 家族構成は、妻、長男、長女の4人家族で、子の独立後からは妻と2人暮らし。自宅は病院から車で90分の距離にあり、妻は、自家用車で来院していた。
 ICU入室後の経過は、術翌日(POD1)、手術侵襲や肺高血圧症などによりⅠ型呼吸不全が進行し、V-V ECMO(体外式膜型人工肺)、CHDFが開始された。POD12にV-V ECMOを離脱し、人工呼吸器管理は継続された。POD18に右気管支断端ろう予防のため経口気管チューブを分離肺換気用チューブに入れ替えた。POD27に端坐位訓練を開始、人工呼吸器離脱の方針となったが、右肺全摘による呼吸機能低下や呼吸筋力低下により離脱困難となり、人工呼吸器管理が長期化した。その後、人工呼吸器離脱の目途がたった時点でICUからHCUに転棟、POD69に人工呼吸器から離脱した。しかし、その後も右気管支断端ろうへの懸念から経口気管挿管は継続された。その後、右気管支断端ろう、膿胸を併発、再手術(POD83)やICUでの人工呼吸器管理(POD91)を経て、最初の手術から127日目に人工呼吸器を離脱、POD130に気管チューブ抜去に至った。
 A氏は長期間の人工呼吸器管理、経口気管挿管を余儀なくされ、せん妄も発症したが、鎮痛優先の鎮静管理で多くの期間を浅い鎮静深度で過ごした。その間、A氏からは身体的苦痛をはじめ、多様な苦痛の表出があったが、看護チームは、その都度A氏の思いを傾聴し、A氏らしく安楽に療養生活が送れること目標に家族と協働して安楽ケアを継続した。