第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD6] 急性・重症患者の安楽とQOL向上を目指す苦痛緩和ケア~ホリスティックな視点で、生きる力を支える看護実践を考える~

2019年10月5日(土) 09:00 〜 10:50 第4会場 (3F 中会議室301)

座長:遠藤 みどり(山梨県立大学 看護学部), 江川 幸二(神戸市看護大学)

[PD6-3] 急性期病棟での急性期・終末期患者のQOL向上のためにできる緩和ケア

渡邊 泰子 (国民健康保険富士吉田市立病院 4階東病棟)

近年、急性期や重症患者のQOL低下にはPost Intensive Care Syndrome(PICS)と呼ばれる合併症が関連し、身体的要因、神経精神的要因、社会的要因が絡み合い影響する(Needham;2012)と言われている。その中でも、身体の痛み、身体機能・日常的役割機能(精神/身体)・社会生活機能・健康感の低下などが、QOL低下に影響するとされている。緩和ケアとは、「生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである(WHO;2002)。」としている。

現在、私は、消化器外科、呼吸外科、耳鼻咽喉科、感染症、内科の50床を有する混合急性期病棟にて、急性・重症患者看護専門看護師(CCNS)、看護師長として勤務し、周術期患者、ICU退室後患者、緊急入院の急性期患者、がん及び非がんの終末期患者などを対象に、看護チームおよび医師を含む多職種と協働し急性期ケアに関わり、かつ、組織における人材育成および病棟管理に携わっている。管理者の立場で、またCCNSとして、組織のあり様を俯瞰しQOLに関わる問題を見極めながら方略をたてているが、その際に常に考えることは、患者と家族にとっての「機能回復」、「安寧」、「幸せ」、「成長」、「希望」であり、その実現の為に私たちに何ができるかの自問である。

急性期病棟においては、ICUでの超早期からの集中ケアと早期リハビリテーションにも関わらず、人工呼吸器離脱が困難な状況や、身体生理機能や認知機能の低下に伴い飲む、食べる、動く力等の著しい自律性の喪失に伴って「無意味、生きる意味がない。」と心理社会的およびスピリチュアルな痛みを体験しているICU退室後患者を受け入れている。そして、患者らしさ、主体性、QOL向上の観点から、退院後の日常を見据えて将来への希望と早期機能回復をあきらめないリハビリや、自己存在の意義や居場所、社会的役割遂行に関する痛みを和らげるためのケアを多職種で継続している。

更に、周術期がん患者においても、根治的手術療法や他の専門的治療が重症化や回復困難な状況をもたらす場合、QOLを重視した終末期での手術療法を選択する場合がある。今回、姑息的手術療法をめぐり、手術を強く希望する終末期がん患者と、術後合併症への恐れや介護やストーマケアへの困惑感から手術に否定的な家族との間で対立が生じていた事例を経験した。内科医と外科医間の微妙な見解の相違もあり、意思決定が進まない状況において患者は、家族からの孤独感を抱き自己尊重を低下させて生きる意味を失いかけていた。担当看護師および医療者チームは、このスピリチュアルな痛みに対し患者の希望に寄り添い続けると共に、家族個々の心理社会的苦痛に対する調整や意思決定への支援を行うことで、可能性が見え勇気がもてるよう緩和ケアを継続した。CNS兼管理者としての役割は、ケアを継続する看護師と医療チームへのモチベーション維持に必要な体制や心理面への支援と、その思いを患者に繋ぐといったトータル的緩和ケアとしてのサポートであった。

今回、これらの取り組みを振り返り、その妥当性や効果を評価しながら、急性期病棟における急性期・終末期患者のQOL向上のためにできる緩和ケアについて再考する。