第21回日本救急看護学会学術集会

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一般演題(ラウンドテーブルディスカッション (RTD))

救急外来看護

[RTD1] RTD(CN)1群 救急外来看護

Fri. Oct 4, 2019 10:30 AM - 11:30 AM RTD会場 (2F 国際会議室)

座長:寺村 文恵(三重大学医学部附属病院 総合集中治療センター)

[RTD1-1] 外傷性出血性ショックを呈した患者の低体温予防とシバリング抑制 ―末梢保温・汗の拭取効果を明らかにする―

大瀧 友紀 (聖隷三方原病院)

はじめに外傷において、アシドーシス・凝固異常・低体温は死の三徴と言われている。低体温時、生体はシバリングを発動させ熱産生を行うが、シバリングによる熱産生は酸素消費の増大、臓器への酸素供給低下、二酸化炭素増加、嫌気性代謝の促進に繋がる。死の三徴が予後に影響するとしながら、外傷患者の保温に関する看護研究はされておらず、外傷の死亡例に低体温が存在した報告、死の三徴を呈した事例の死亡率は急増するという医師の報告のみがある。
今回、外傷による出血性ショックを呈した患者に対し、体温放散のメカニズムを捉えた選択的保温を行う事が、低体温予防とシバリングの抑制を可能とするのか試みた。
目的外傷による出血性ショックを呈した患者の低体温予防とシバリング抑制における、積極的四肢末梢保温と選択的保温の効果を明らかにする
対象及び方法出血性ショックを呈した転落外傷患者に対し、①末梢保温として、両手・両足を不織布で覆い常時保温し、②選択的保温として、顔面・胸部の発汗の拭き取りを行った。測定する体温は、①深部温の指標として鼓膜温の測定②外殻温の指標として腋窩温の測定を、共に15~30分間隔で測定とした。 分析は、測定した核心温・四肢末梢温の差とシバリング発生の有無、受傷後の時間経過と共に、バイタルサインと交感神経症状を収集した上で、生体反応と体温の関係を分析する。
結果患者は病院搬入時から冷汗が著明で、多発骨折により1700~2700ml程の出血が推定された。輸液・輸血の急速投与によって循環動態は維持されたが、救急外来搬入30分後の介入開始時、腋窩温は35.8℃、鼓膜温は35.9℃まで低下している状態であった。介入開始後経過は、左胸腔ドレーンの挿入(冷汗+)→挿管(プロポフォール使用)→CT検査30分間→X-P検査15分間(下半身露呈)→初療室に戻り持続プロポフォール開始→下肢創部の洗浄・シーネ固定→右胸腔ドレーン挿入(→冷汗+)→MRI→ope出棟、と経過した。四肢末梢保温を開始し30分が経過したCT前の時点で、鼓膜温・末梢温とも36.2℃まで上昇し、CT・X-P検査中も体温は維持できた。下肢洗浄の実施によっても体温低下を見ず、36.7℃まで上昇し「暑い」と訴えたため、四肢末梢保温を終了した。四肢末梢保温終了後、36.4℃まで低下した。核心温・末梢温は終始0.3℃以上の格差を認めなかった。
考察四肢末梢保温の実施によって、低体温とシバリングの抑制を可能とした要因を検討した。
熱放散に対する四肢末梢保温の効果:四肢末梢保温は、体温移動の血流依存特性と熱放散の放射の特性に対する介入であったと考える。これは、鎮静剤や生体反応による動静脈吻合の拡張作用によって促進された熱放散と、低下した四肢末梢を通過した際の冷却された血液の潅流による核心温低下を防いだためと考える。
蒸発に対する選択的保温の効果:蒸発の特性から、四肢末梢保温が加湿による熱放散の抑制と、気化熱・凝縮熱による加温効果を発揮したと考える。また、体幹部・頭部の汗の拭き取りが、生体の汗腺数・発汗量・皮膚血流量を捉えた介入となり、蒸発による熱の放散を減少させることに繋がったと考える。
冷覚に対する四肢末梢保温の効果:体温喪失・体温冷却が著しい状態の中、処置・検査によって低温環境に長時間さらされたが、体温低下、特に末梢温低下を見ずシバリング発生も抑制した。これは、手足には冷線維(冷受容器)が多く存在しており、これらが感知する寒冷情報や皮膚温低下情報が、四肢末梢保温により減少し、体温低下を予防するための予測制御機能を抑制したと考える。