第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題(ラウンドテーブルディスカッション (RTD))

救急外来看護

[RTD1] RTD(CN)1群 救急外来看護

2019年10月4日(金) 10:30 〜 11:30 RTD会場 (2F 国際会議室)

座長:寺村 文恵(三重大学医学部附属病院 総合集中治療センター)

[RTD1-4] 母体救命受け入れ時の看護体制における救急看護認定看護師の役割 初療看護実践を通して

手塚 知樹 (杏林大学医学部付属病院)

はじめに:静脈血栓塞栓症は妊産褥婦死亡の原因となる代表疾患である。

今回、母体救命目的で、他院から出産後の重篤な肺血栓塞栓症から心肺停止に陥り、自己心拍再開まで1時間以上の時間を要しながらも、生存し社会復帰した事例を経験した。母体救命システムにおける救急看護認定看護師の役割について、検討し、報告する。


目的:本症例で実践した看護ケアの妥当性と母体救命受け入れ時の看護体制における救急看護認定看護師としての役割について、文献的考察を加え今後の課題を明確にする。


倫理的配慮:患者個人が特定できないように配慮した



事例紹介:患者はA氏、30歳台女性であり、HELLP症候群疑いでB病院にて入院し、入院中にDVTを発症した。帝王切開術施行時に、児娩出後「10時30分」、心肺停止となり「10時43分」気管挿管、胸骨圧迫を継続しながら、スーパー母体搬送でA病院3次救急外来へ搬送された。A病院到着「12時06分」時も、心肺停止状態であり、蘇生を継続し、3次救急外来血管造影室に直接入室した。胸骨圧迫を継続しながら、「12時42分」にVA-ECMOを確立した。すぐに神経学的所見として対光反射が出現し上肢の不随運動もみられた。CAG上、冠動脈病変がない事を確認した上で、造影CTを施行し、左右肺動脈主幹部、右大腿静脈に血栓をみとめた。心停止後の後遺症はなく、入院56日目、リハビリ目的にC病院へ転院となった。



結果:患者は、自己心拍が再開していない状態であり、第一に救命としてVA-ECMOを確立する必要性があった。そのため、得られた事前情報から救急医、循環器内科医、産科医と協議し、3次救急外来血管造影室に直接入室することを提案し、治療方針について情報共有した。来院後、救急医を中心とした救命処置の介助、蘇生処置に対する患者の反応を評価指標として神経学的所見の変化の観察、さらに産後の出血状況など患者の全身状態の観察に加え、ECMO導入患者の管理、患者の家族に対する精神的ケアをおこなった。


考察:妊娠および分娩後は、血液凝固能亢進、線溶能低下、血小板活性化、女性ホルモンの上大静脈平滑筋弛緩作用、増大した妊娠子宮による腸骨静脈・下大静脈の圧迫、帝王切開などの手術操作による骨盤内静脈血管障害などにより肺血栓塞栓症を生じやすい。A氏の場合、出産前よりDVTを発症しており、それが帝王切開時の児分娩に伴い、肺動脈に飛遊し発症したと考えられた。先行文献からは、帝王切開後、肺動脈血栓症による心停止をきたし、社会復帰した報告事例は数例のみであり、わが国の母体救命に関する看護研究は見当たらない。本事例は、心肺停止からVA-ECMO導入まで119分間という時間を要した中、前医からの絶え間ない二次救命処置に加え、安全で迅速なECMO導入に向けた時間短縮を考慮した受け入れ体制の準備、多職種間での的確な情報共有が、蘇生後の社会復帰を可能とした要因として考えられた。
当院の母体救命システムは確立している。しかし行動実践レベルの観点から看護スタッフ間での母体救命の知識や看護実践値に差が生じていること、受け入れ体制におけるスタッフへの教育体制が確立していない等の課題が明らかになった。
救急看護認定看護師として、スタッフ間での母体救命における看護実践に差が生じないように教育的観点で関わっていくことが必要だと考えられる。また、看護師だけでなく、医師や他職種を交えた効果的なOff -the-job training実施や母体救命システムに関して自ら推進していく関わりが必要だと考えられる。