第21回日本救急看護学会学術集会

講演情報

シンポジウム

[SY1] 日常の救急・時間外診療における救急看護の在り方

2019年10月4日(金) 15:20 〜 17:20 第2会場 (2F コンベンションホールB)

座長:佐藤 加代子(岩手県立磐井病院), 山崎 早苗(東海大学附属病院)

[SY1-2] 専門医と応援看護師の救急診療は危険がいっぱい!? -チーム医療で高める安全への取り組みと課題-

清水 智恵 (姫路赤十字病院)

三次救急医療施設では、救急医を中心としてチームが形成され、早期に状態の安定化や根本的治療が行われる。指揮命令系統が明確であり、それぞれの専門性を生かしたチーム力と役割分担で高度な医療提供を実践している。一方、多くの二次救急医療施設に救急医は在籍していない。そのため、各診療科の専門医が当番制で対応している。患者一人に複数の医師が関わることも多いため、指揮命令系統は不明瞭になりやすく、役割や責任が分散しやすい。看護師自身の経験や知識にも大きな差があり、三次救急医療施設と同レベルのチーム力や実践力を求めるには難しい場合が多い。
姫路赤十字病院は560床を有する二次救急医療施設であり、年間12000件の救急患者に対応している。救急医は在籍していない。そのため、診療中に他科へのコンサルトが必要になった場合、24時間体制で各科の専門医に繋ぐ事ができるシステムを構築している。救急診療は当番医と応援看護師で担っているが、スタッフのほとんどが救急診療に慣れていない医療者であり、経験や知識も様々である。そのため、許容量を超える患者数、アンダートリアージ、急変、初期治療の遅れ、診療スタッフ同士の意見の相違など、日々様々な問題に直面している。救急診療を支えている応援看護師は、普段、病名や治療方針が明確な入院患者に看護を展開している。救急の患者は症状の原因がまだ明らかになっておらず、限られた情報の中で、急を要する状態なのか否かの判断を求められる。専門外の疾患であればある程、判断は困難を極めるため、指示や検査の実施にも時間がかかってしまう。その上、診断がつけられない場合も多く、時間を費やしている間に容体が悪化してしまう可能性も出てくる。検査や処置を実施するだけでは、検査中の観察が疎かになりやすく、患者の安全を保障することはできない。患者の急変を招く恐れがある状況下では、救急診療に苦手意識を抱くスタッフも多い。ストレスを抱えながらの勤務は医療事故を引き起こすなどの悪循環を生むことにも繋がっていく。救急診療は多職種が協力し合わなければ、安全で最善の医療は提供できないといっても過言ではないのだ。
そこで、当院では2017年度から多職種対象の臨床推論研修会を開催してきた。応援看護師は各部署で様々な経験を積んでおり、この看護経験を是非活用したいと考えた。研修会で急性症状別の救急診療について、知識を補い、多職種でチーム医療を実践することができれば、安全で密な診療が可能になると考える。開催当初から、臨床推論に興味を持つコメディカルも多く見られている。看護師対象の研修会では、グループワークを取り入れたことで、自分だけでは気づけなかった診療中の観察ポイントが分かるようになったなどの前向きな言葉を認めている。研修会開催から3年を経た今、医師に意見することに遠慮や難しさを感じている場面はまだ多いが、医師の診療の様子から次に行われる処置や検査を予測し、準備ができるようになったスタッフは少しづつ増えてきている。今後もさらに、幅広い視点での推論力や看護展開への応用を高めていくことが課題である。
看護師は多職種への橋渡しを行うことが求められる職種である。各科の専門医が診療を行うという強みを生かし、多職種で臨床推論を活用できるチーム医療を実践することができれば、救急医がいなくても患者の安全を担保することができるようになると考える。救急医のいない二次救急医療施設で、患者の安全を守り、質を担保する医療と看護の有り方について、皆さんと考える機会になれば幸いである。