[EL4-01] 救急初期診療における臨床推論の実際
キーワード:臨床推論
本邦では、救急外来や救命救急センターで疾病救急患者に対して実施する標準化された診療手法が確立されておらず、初期診療に携わる医師、看護師、およびメディカルスタッフの間で必ずしも診療手順を共有することができていない。適切な救急初期診療を実施するためには、1. メディカルスタッフ間で共有できる、臨床推論に基づく疾病救急患者への診療指針の確立 2.疾病救急診療指針に基づくチームアプローチ教育が必要である。
近年、一般診療における診断において臨床推論が注目されている。臨床推論は、患者から得られる情報から診断を確定する行為であり、その手法としては帰納(仮説)と演繹からなる仮説演繹法が用いられることが多い。仮説演繹法では、最初に、問診による病歴をもとに幾つかの可能性のある疾患や病態を想起する。次いで身体所見を確認するとともに血液・生理・画像検査を加えて、想起した診断をより確率の高いものへと絞り込んでいく「帰納」の過程を実施する。次いで、候補疾患から診断を確定する為に、尤度比などを参考に疾患特異的な検査を追加して仮診断の妥当さを三段論法に基づき検証する「演繹」の過程が行われる。特定検査の結果が予想と一致すれば推論が正しかったことになる。逆に重篤な疾患を否定する為に、感度の高い検査を実施することもある。
しかしながら、救急初療での原因病態や原因疾患の鑑別には、一般診療とは異なり緊急度を重視した対応が必要となる。このため救急初療における臨床推論では、緊急度の高い疾患や病態を迅速に鑑別するために、各症候の「絶対にはずせない疾患(Killer disease)」を最初に演繹法により確認する過程が必要となる。具体的には、救急初療における診療では、気道・呼吸・循環・意識の異常に対する初期対応を行った後に、原因疾患と病態の鑑別のために「救急初期診療における臨床推論」を開始する。まずは演繹的推論に基づき全体に外せないKiller diseaseの鑑別を行い、それらと確診されれば緊急的な治療に移行し、反対にそれらが否定されれば、より緊急度の低い病態や疾病を帰納的推論に戻って臨床推論することで鑑別するという2段構えのステップをすすめる(図)。チーム医療が特に重視される救急診療においては、このような臨床推論のステップを医師、看護師およびその他の医療スタッフが共有し、互いにサポートしながら診断と治療の思考過程をすすめる必要がある。
当科では、米国のAMLS(Advanced Medical Life Support)を参考に、臨床的推論に基づく救急疾病患者へのアプローチをEMEC(Emergency Medical Evaluation and Care)として策定し、臨床現場で実践するとともに、医師および看護師を対象にEMECの理念および手法を教育するEMECコースを定期的に開催している。本コースでは、高機能シミュレータを用いたプログラムのもと、医師および看護師に診療手法を共有させるとともに、ノンテクニカルスキルに基づくチームアプローチを修得させることも目指している。EMECコースには、当科の救急科専門医プログラムの連携施設が参加しており、救急科専攻医がローテートするなかで、各施設に普及させることも目指している。
「救急初期診療における臨床推論」に基づく疾病救急患者に対する救急初期診療指針を用いたシミュレーション教育を実施することにより、緊急度の高い救急疾患を見逃すことなく診断し、迅速な治療へと円滑に移行することが可能になることを期待している。本講演においては、「救急初期診療における臨床推論」を概説するとともに、当科が実施しているEMECコースを紹介したい。
近年、一般診療における診断において臨床推論が注目されている。臨床推論は、患者から得られる情報から診断を確定する行為であり、その手法としては帰納(仮説)と演繹からなる仮説演繹法が用いられることが多い。仮説演繹法では、最初に、問診による病歴をもとに幾つかの可能性のある疾患や病態を想起する。次いで身体所見を確認するとともに血液・生理・画像検査を加えて、想起した診断をより確率の高いものへと絞り込んでいく「帰納」の過程を実施する。次いで、候補疾患から診断を確定する為に、尤度比などを参考に疾患特異的な検査を追加して仮診断の妥当さを三段論法に基づき検証する「演繹」の過程が行われる。特定検査の結果が予想と一致すれば推論が正しかったことになる。逆に重篤な疾患を否定する為に、感度の高い検査を実施することもある。
しかしながら、救急初療での原因病態や原因疾患の鑑別には、一般診療とは異なり緊急度を重視した対応が必要となる。このため救急初療における臨床推論では、緊急度の高い疾患や病態を迅速に鑑別するために、各症候の「絶対にはずせない疾患(Killer disease)」を最初に演繹法により確認する過程が必要となる。具体的には、救急初療における診療では、気道・呼吸・循環・意識の異常に対する初期対応を行った後に、原因疾患と病態の鑑別のために「救急初期診療における臨床推論」を開始する。まずは演繹的推論に基づき全体に外せないKiller diseaseの鑑別を行い、それらと確診されれば緊急的な治療に移行し、反対にそれらが否定されれば、より緊急度の低い病態や疾病を帰納的推論に戻って臨床推論することで鑑別するという2段構えのステップをすすめる(図)。チーム医療が特に重視される救急診療においては、このような臨床推論のステップを医師、看護師およびその他の医療スタッフが共有し、互いにサポートしながら診断と治療の思考過程をすすめる必要がある。
当科では、米国のAMLS(Advanced Medical Life Support)を参考に、臨床的推論に基づく救急疾病患者へのアプローチをEMEC(Emergency Medical Evaluation and Care)として策定し、臨床現場で実践するとともに、医師および看護師を対象にEMECの理念および手法を教育するEMECコースを定期的に開催している。本コースでは、高機能シミュレータを用いたプログラムのもと、医師および看護師に診療手法を共有させるとともに、ノンテクニカルスキルに基づくチームアプローチを修得させることも目指している。EMECコースには、当科の救急科専門医プログラムの連携施設が参加しており、救急科専攻医がローテートするなかで、各施設に普及させることも目指している。
「救急初期診療における臨床推論」に基づく疾病救急患者に対する救急初期診療指針を用いたシミュレーション教育を実施することにより、緊急度の高い救急疾患を見逃すことなく診断し、迅速な治療へと円滑に移行することが可能になることを期待している。本講演においては、「救急初期診療における臨床推論」を概説するとともに、当科が実施しているEMECコースを紹介したい。