第22回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題

救急外来看護

[O1] 一般演題1

[O1-20] 感染性心内膜炎による20代の感染性脳動脈瘤破裂症例の初期対応を経験して

○吉野 暁子1 (1. 埼玉医科大学国際医療センター)

キーワード:感染性心内膜炎、感染性脳動脈瘤、初期対応

【はじめに】 
 当院における、救急隊員から病院への収容依頼のホットラインは、複数回線である。初期二次専用、三次専用、心臓疾患専用ダイアルは、救命救急科の医師が対応し、脳卒中を疑う症例に対しては「脳卒中専用ダイアル:脳卒中ホットライン」がある。今年度より特定看護師による「脳卒中ホットライン」の対応および医師と協働した初期診療の問診を開始した。当院は脳卒中基幹病院であり、急性期脳梗塞のrt-PAや機械的血栓回収術、出血性病変に対する開頭術などを24時間提供している。そのため、救急隊員には、脳卒中を疑った場合、脳卒中を強く疑う症状、「意識障害」「片麻痺」「失語」「共同偏視」「発症時刻(最終未発症)」等に絞り、脳卒中ホットラインで伝えるように依頼している。今回、左上肢の感覚異常および左顔面麻痺、発熱を主訴とした、キーワード以外の症状を呈する症例を応需したところ、感染性心内膜炎に合併した感染性脳動脈瘤破裂症例であった。これまでに経験しない症例であったため報告する。
【目的】
 本症例を振り返り、今後の臨床推論や脳卒中ホットライン応需に役立てる。
【倫理的配慮】
倫理的配慮として、所属施設の管理者の許可を得て実施した。
【症例】
20代男性。既往歴はなし。現病歴:20××年4月ころより微熱、体調不良を自覚し、近隣医療機関を受診したが、感冒と診断され投薬治療を受けていた。5月某日、左口腔内の違和感を訴え脳神経クリニックを受診しMRIを撮影したが、確定診断にいたらず帰宅。翌日、頭痛、左上肢の感覚異常と左顔面麻痺、発熱を発症し家族が救急車を要請、当院に搬送となった。搬入時、第一印象は虚脱感はあったが、発熱以外、生理的異常はなく、重症感は感じられなかった。意識レベル:清明、頭痛:NRS3、体温:38.3℃、血圧:112/59mmHg、心拍数:102回/分、呼吸:22回/分、SpO2:99%(室内空気)、肺音は左右差なく副雑音なし、心雑音:なし、瞳孔は両側3.5mm、対光反射は迅速、構音障害なし、額の皺寄せは正常、左鼻唇溝形成障害ははっきりせず、左口角の下垂を認め、バレー徴候、ミンガッチーニ徴候は陰性であった。発熱があったため、胸部CTでCOVID19を否定。頭部CTを撮影したところ、右前頭葉に皮質下出血があり緊急入院となった。入院歴:入院数時間後に左片麻痺と意識障害が出現し、頭部CTを撮影したところ、出血の拡大を認め、出血源精査目的の血管造影では左中大脳動脈末梢部(M4区:中心前溝動脈)に紡錘状の動脈瘤が確認され、緊急トラッピング術に至った。術後精査にて、感染性心内膜炎に合併した感染性脳動脈瘤に矛盾しないことが確認され抗菌薬を投与し循環器内科で加療を継続している。
【考察】
 脳卒中ホットラインの情報、来院時の所見から、左口角を中心とする顔面麻痺は、上位運動ニューロン型の顔面神経麻痺で、左上肢の感覚異常とあわせた症状は、中大脳動脈の皮質枝の障害として説明がつき、感染性脳動脈瘤に関する先行文献での好発部位と類似する。感染性心内膜炎に脳動脈瘤を合併する頻度は約10%とされ、破裂症例においては死亡率が80%と予後不良で重篤な合併症のひとつとされるため、緊急度の高い病態である。本症例でも発症24時間以内にダイナミックな容態変化をきたしていた。皮質下の出血には発熱を伴うことがあるため、今回の症例では、軽症の脳血管障害の可能性との先入観から、感染性心内膜炎に合併した脳動脈瘤破裂を視野にいれることができなかった。「特殊な原因による脳血管障害ではまず疑ってみる」ことを念頭に置き、今後の応需や問診に活かしたいと考える。