第22回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題

医療安全

[O11] 一般演題11

[O11-02] A病院における窒息事例の現状分析~院内教育体制の構築を目指して

○中井 紘平1、新名 朋美1 (1. 日本赤十字社大阪赤十字病院救命救急センター)

キーワード:院内急変、窒息

【背景】窒息は極めて緊急度が高い病態であり迅速かつ適切な対処が求められる。A病院の院内急変において窒息が誘因の事例は少なからず発生している。【目的】窒息が誘因となった院内急変事例を分析し、窒息の初期対処について考察する。【方法】2013年4月~2020年3月に発生した窒息による急変事例を医療安全レポートシステムから抽出し、対象事例を診療録から患者属性、意識レベル(以下、JCS)、せん妄の有無、誤嚥リスク、終末期の有無、窒息の原因、患者転帰等の16項目のデータを後ろ向きに調査し基礎統計を行った。また、窒息の原因から異物誤嚥群、喀痰の喀出困難群、その他に分類し、発見時の状況と初期対処について内容分析した。【倫理的配慮】収集するデータは個人が特定されることがないように配慮し、データはパスワードをかけて管理し調査終了後に破棄した。尚、本調査は看護部の承認を得ている。【結果】過去7年間の窒息による急変事例は9件であり、CPAに至ったのは7件で死亡したのは5件であった。対象者は平均年齢75(中央値77)歳、男性8件であった。JCSはⅠ群6件、Ⅱ群3件であり、せん妄を有したのは2件であった。48時間以上の絶食を有していたのは7件で、期間は平均33.1(中央値11)日であった。すべての事例において誤嚥リスクはあったが摂食嚥下チームの介入はなかった。また、終末期にあったのは3件でいずれもDNARの取得はなかった。窒息の原因による分類は、食事や薬の異物誤嚥群が5件、喀痰の喀出困難群が3件であり、その他は喀血1件であった。発見時の状況については、異物誤嚥群ではいずれも看護師の見守り下の食事中に発生しており、詰所内の発見事例が2件含まれた。これらの初期対処はすべて吸引が実施されていたが、背部叩打法や指拭法を実施していたのは1件であった。喀痰の喀出困難群では、全例モニターアラームにより発見され、初期対処で吸引を試みたが窒息を解除できずCPAとなっていた。これらには体位変換実施の数分後に呼吸状態が悪化した事例が2件含まれた。その他の事例では、看護師が喀血を発見し当直医が気管挿管を試みたが視界不良で難渋し、院内急変の応援要請後の二次救命処置の過程でCPAとなっていた。【考察】本調査では、9件の窒息事例のうち患者転帰が死亡となったのは5件であった。一次救命処置の気道異物除去では、発見時に患者の反応がある場合、患者による咳嗽や、救助者により患者の気道内圧を上昇させ強制的に呼気を排出させ異物を除去することが必要であり、腹部突き上げ法や背部叩打法が推奨されている。また、気道閉塞の初期対処は、複数の手段を組み合わせて異物除去を試みることが効果的であるといわれている。本調査では吸引以外の方法で窒息解除を試みたのは1件であり現場に居合わせた医療者のみでは窒息解除ができない現状が明らかになった。今後は、窒息発見時の適切な異物除去法と迅速な応援要請を普及に努め、窒息発見時の初期対処ガイドラインの策定や、ケースシナリオに応じた一次救命処置を研修に組み込むなどの教育体制を整えていきたい。また、窒息事例の多くは医療者の見守り下で発生していたことから、摂食嚥下チームと連携し、誤嚥リスクのある患者のケア指針を策定するなど院内体制を整えていきたい。【結語】窒息は医療者が発見しても死亡に至る危険性が高い。窒息対処のガイドラインの策定や誤嚥リスクを考慮した看護ケア指針などの院内教育体制を構築することが必要である。