第22回日本救急看護学会学術集会

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一般演題

重症患者看護

[O5] 一般演題5

[O5-04] A病院の救命救急病棟で緊急気管挿管された患者32例の特徴~挿管8時間前からの状態変化の傾向~

○吉田 友梨恵1、能登谷 葉月1、坂本 舞1、桐澤 成美1、井下田 恵1 (1. 市立函館病院救命救急センター)

Keywords:緊急気管挿管、急変、RRS起動基準

【はじめに】
A病院(救命救急センター併設、648床、ICU8床、救命救急病棟26床)は、年間約8000名の救急患者を受け入れる地域の基幹病院である。2019年度、救命救急病棟(以下ECU)への入院は2354名で、平均在室日数は4.5日であった。入院後35名が緊急気管挿管(以下挿管)されたが、本邦においては、入院後の挿管に関する先行研究が見当たらなかった。そこで、挿管患者に共通する症状や兆候を見出すことで挿管を予測し、迅速な急変対応につなげるための調査を行った。
【目的】
挿管前の患者状況を調査し、緊急挿管となる患者の傾向を明らかにする。
【方法】
2019年度に挿管された35名のうち3例(翌日の手術に備え予め挿管することが決定していた例、病状進行時に挿管する方針であった例、抜管直後の再挿管例)を除く32例を対象とした。聖マリアンナ医科大学でのRRS起動基準に沿って、挿管前8時間のバイタルサイン変化と自覚症状・他覚症状を電子診療録より抽出し、患者背景や挿管理由など分析を行った。
【倫理的配慮】
本研究はA病院倫理委員会にて承認を得た。
【結果】
入院時の診断名は脳神経系7名、感染症系6名、呼吸器系5名、外傷・循環器系各4名、その他6名。30例から何らかの異常所見が抽出され、2例は起動基準に該当せず、複数項目に合致したのは19例(59.4%)あった。‹1›呼吸器系、5分以上にわたる新たなSpO285%以下16名(50%)、呼吸数8回未満・36回以上10名(31.2%)、新たな呼吸苦の出現5名(15.6%)。‹2›循環器系、収縮期血圧90mmHg未満、200以上15名(46.8%)、新たな症状を伴った脈拍40回/分以下・130以上、160以上8名(25%)、新たな異常な脈8名(25%)、新たな胸痛1名(3.1%)。‹3›尿路系、新たに発生した尿量50ml/4h以下6名(18.8%)。‹4›神経系、急激な意識消失2名(6.3%)、新たな脳卒中、痙攣2名(6.3%)、‹5›その他、10分以上の異常な興奮7名(21.9%)、チアノーゼなどの皮膚色の急激な変化5名(15.6%)、制御不能な出血1名(3.1%)、制御不能な疼痛1名(3.1%)、これ以外の項目は0名であった。挿管の直接的原因は、Aの異常が3名(9.4%)、B23名(71.9%)、C・D各3名(9.4%)であった。院内急変時の緊急コールは2件起動されており、1件は吸引中に急変、痰による低酸素からの心肺停止、もう1件も痰が原因と思われた。その他、痰が影響していると思われる症例は4例あり、脊髄損傷や骨盤骨折など全て外傷系疾患だった。脳神経系疾患7名のうち3例が痙攣や意識レベルの低下を機に挿管され、他4例はBの異常から挿管となっていた。感染症系疾患の原因はB、C、Dと様々であった。
【考察】
緊急気管挿管に至る患者は、1項目ではなく複数の項目が絡んで急変することが示唆された。脊髄損傷など外傷系疾患では、安静を強いられることで効果的な痰の喀出が行えず、排痰困難に陥り挿管となることが分かった。循環器系の兆候と挿管の関連性は不明だが、興奮などは呼吸や循環の異常から派生したものと思われ、挿管を予測するには興奮などの変調も見逃すことなく気付くことが重要であると考える。医師への報告基準に達していない状況であっても、これらの兆候を複数認めた場合は、改めてABCDEアプローチに沿って観察し、医師へ早めに相談することを考慮すべきと思われた。今後、さらに分析を進め挿管の傾向を明らかにし、ECU看護師に周知することで迅速な急変対応を目指したい。