第22回日本救急看護学会学術集会

講演情報

一般演題

重症患者看護

[O5] 一般演題5

[O5-06] ICUにおけるせん妄予防の有用性

○元川 直哉1、濵田 悦子1、藤田 真侑子1、山田 晃子2 (1. 独立行政法人 労働者健康安全機構 中国労災病院 看護部、2. 広島文化学園大学 看護学部)

キーワード:せん妄予防、ICU

【目的】
 近年、患者の高齢化が進み、A病院ICUでもせん妄発症のリスク因子の多い患者の入室が多い現状がある。その中には非挿管患者の入室も多く、身体抑制やICUの環境、治療上の制限により、せん妄状態を誘発し、ICU入室期間の延長や患者の安全を妨げている可能性がある。せん妄を予防することは重要であるが、ICUにおけるせん妄予防ケア(以下、予防ケアとする)の有用性についての研究は少ない。患者の安全と安楽を確保し、QOLの維持するためにICUでの予防ケアの有用性を明らかにすることを目的とした。

【方法】
期間:令和元年8月1日~12月15日
対象:A病院ICUに入室した65歳以上の非挿管および意識障害のない患者(認知症患者を含まない)
方法:
1)対象者に患者データおよびせん妄の状況について情報収集
2)先行研究を基に「背景・準備因子」「身体・治療因子」「患者因子」「周辺因子」の4領域102項目と薬剤104種類 のせん妄因子から、6項目31因子のせん妄発症のスクリーニング用紙及びせん妄予防ケアセットを作成
3)せん妄発症スクリーニング、ICDSC、予防ケアの説明会を実施
4)対象者の入室時にリスク因子のスクリーニングを実施
5)実施可能な予防ケアをセット内から選択し実施し、各勤務帯でICDSCを用いてせん妄を評価

【倫理的配慮】
 A病院倫理委員会承認後、対象者に研究の旨について同意書を用いて説明を行った。また、収集したデータは本研究以外には使用しないこと、厳重に個人情報の管理を行うこと、一度同意しても撤回が出来ることを説明し同意を得た。

【結果】
 介入群は16名、非介入群は32名であった。介入群では、せん妄発症者は1名、ICUの平均入室期間は2.9日であった。せん妄発症者1名に実施した予防ケアは、「疼痛コントロール」「日時・現状の把握」「家族の面会」「睡眠―覚醒リズムの構築」「個室管理」「日用品の持参」であった。また、せん妄発症者と未発症者では、各ケアとの有意差はなかった。非介入群では、せん妄発症者は8名であり、せん妄発症者と未発症者では、「背景因子」「準備因子」「身体因子」「治療因子」「患者因子」「周辺因子」「せん妄の有無と発症日」「予防ケアの実施内容」「認知症」のうち、「認知症がある患者」がχ2検定で有意差を認めた。周辺因子の「入室期間」では「入室期間が長い患者」、背景因子の「年齢」では「高齢者」がU検定で有意差を認めた。また、「無職」「脳血管障害の既往がある」「うつの既往がある」「高血糖」「電解質異常がある」「せん妄を発症しやすい薬剤を使用している」「侵襲の大きい処置の実施」でせん妄を発症しやすい傾向にあった。

【考察】
 ICUの重症患者では「身体因子」「治療因子」のリスク因子を多数有する患者が多く、せん妄発症に影響する可能性が考える。75歳以上、入室期間が3日目以降、認知症を有している患者は、せん妄発症のハイリスク患者であると認識できる。さらに、介入群のせん妄発症者1名は、せん妄予防ケア8項目のうち、7項目を実施していた。また、31項目のリスク因子のうち20項目が該当しており、対象者16名のうち、一番多くリスク因子が該当していた。このことから、予防ケアの実施に関わらず、ICUの重症患者でリスク因子が多く該当する患者は、せん妄発症のリスクとなることが考えられる。ケア介入群、ケア非介入群ともにリスク因子を共通して有するが、介入群ではせん妄の発症率が抑えられており、予防ケアが有用であった可能性がある。