第22回日本救急看護学会学術集会

Presentation information

一般演題

家族看護

[O7] 一般演題7

[O7-06] クリティカルケア領域における代理意思決定とその支援
〜インフォームド・コンセントに同席した一事例〜

○新部 愛海1、渡邊 直貴1 (1. 東海大学医学部付属病院救命救急センター)

Keywords:代理意思決定、家族

【目的】クリティカルケア領域における代理意思決定とその支援のプロセスを振り返り、代理意思決定者を支援する看護師のあり方を明らかにする。

【方法】対象者に関する診療記録、4回に渡るインフォームド・コンセントの内容を、プロセスレコードを用いて振り返り、看護実践の整理・分析を行った。

【倫理的配慮】研究による対象患者の匿名性の保護に配慮し、個人が特定されないようにデータ化を行った。研究者の所属施設の臨床看護研究審査委員会の承認を得た。(承認番号20N-003)

【結果】
患者情報:患者A氏、80歳代女性
現病歴:蘇生後脳症
家族情報:長男(キーパーソン)
インフォームド・コンセントまでの経過:長男が倒れている患者を発見した。入院後も自発呼吸の出現なく、呼吸器からの離脱は困難であった。原因探索のためにMRI検査の実施も考慮されたが、A氏の全身状態では耐えられないだろうと思われた。家族への病状説明と今後の治療方針を決めるためにインフォームド・コンセントが行われた。場面は以下である。
 1) 家族の戸惑い
  1回目のインフォームド・コンセントにて長男より「今まで本人は何も言ってなかったですし、入院後も家族でそのような ことを考えたり、話し合ったりしたことがなかったので、(中略)状況を整理できていなくて・・・。」との発言が聞かれた。筆者は、家族の表情が見える席に座り、発言だけではなく表情の変化を注意深く観察した。家族を病室まで案内し、ベッドから少し離れて立つ家族をベッドサイドに入るよう促した。またカーテンを閉めて、何かあればいつでも声をかけてほしいと伝えた。
 2) 家族の揺れ動く心情
  3回目のインフォームド・コンセントにて長男より「奇跡が起きて良くなることはないのですか。先生が説明してくださったことはよくわかりました。ただいざ決めるとなるとなかなか・・・。」との発言が聞かれた。筆者は頷きながら傾聴した。

【考察】
 上記の場面にて最も印象深かったことは、限られた時間と情報量を頼りに大切な人の生命に関する決断を下さなければならない代理意思決定者の精神的・身体的負担が大きいということだった。家族は突然の出来事に戸惑い、迷いやもどかしさ、自分が決断しなければいけない責任感など消化しきれない感情を抱えて苦しんでいたのだろうと考える。
 クリティカルケア領域のように患者の容態が刻一刻と変化し、時間が切迫している状況では、医療者のサポートなくして家族が代理意思決定を行うことは難しいと考える。意思決定支援のプロセスの1つにShared Decision Making(以下SDM)がある。患者・家族主体であることは代理意思決定の大前提であるが、意思決定を家族のみに委ねるのではなく、医療者も含め皆で共に考えることができれば、迷いを抱く家族の精神的負担の軽減に繋がると考える。
 代理意思決定の過程で家族の思いが揺れ動くこともある。家族と医療者が思いを共有できる関係を築くことができれば、家族がありのままの感情を表出でき、看護師が家族の気持ちの移り変わりに寄り添うことができると考える。そして、気持ちが揺れ動くことは決して間違っていないということを家族に伝え、思いを受け止めることが、納得した代理意思決定のプロセスを辿るために重要であると考える。

【結論】
1. 代理意思決定のプロセスにおいて、家族と価値観や目標、苦悩を共有し決断に向けて共に考えていく。
2. 家族が納得した代理意思決定のプロセスを辿ることができよう、家族の気持ちの移り変わりに寄り添い、ありのままの思いを受け止める。