第22回日本救急看護学会学術集会

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一般演題

家族看護

[O7] 一般演題7

[O7-07] 倫理的問題の解決に至った面談場面における看護実践 -医療者と家族の合意形成を図ることができた事例-

○片岡 真哉1、園川 雄二1、渡邊 直貴1 (1. 東海大学医学部付属病院救命救急センター)

Keywords:家族、倫理、意思決定

【目的】医療者と家族の合意形成を図り、倫理的問題の解決に至った面談場面のプロセスを振り返り、その看護実践について明らかにする。



【方法】実践報告。対象者に関する診療記録、看護記録、カンファレンス記録からデータを収集し、面談場面における看護実践を研究者間で振り返り、実践内容を整理し記述した。



【倫理的配慮】対象者の匿名性の保護に配慮し、個人が特定されないようにした。また、発表に際し、臨床看護研究審査会の承認を得た。



【結果】患者は80歳代女性。家族は90歳代の夫、60歳代の長男夫婦、60歳代の長女。キーパーソンは長男であるが、医師からの病状説明や方針を相談する際には夫以外の3名が揃って出席している。

経過:患者は施設で食事中に窒息し、心停止となり救急要請となった。蘇生に成功し、集中治療の結果、生命の危機は脱して全身状態は安定した。しかし、気管挿管および人工呼吸器管理の継続が必要な状態である。主治医が気管切開の必要性について説明するが、家族は人工呼吸器離脱と抜管を希望し、気管切開はしないという意向を示している。院内の倫理コンサルテーションを依頼したが、「抜管は可能とも不可能とも判断できない」という結論に至っていた。そこで改めて主治医から家族へ気管切開の説明がされることになった。

合意形成に至った面談における看護実践内容:

①主治医-家族システムの相互作用を読み取る

主治医より倫理コンサルテーションの結論と併せて気管切開のメリットを説明した。家族は倫理コンサルテーションの結論に理解は示しつつも、抜管について模索している様子であった。主治医はさらに説明を重ね、徐々に家族が抜管を諦め、気管切開の同意書に渋々サインをするような雰囲気が出始めた。

②Jump in:家族が秘めている思いや願いを知るために、家族の懐に飛び込む

看護師が「そもそも最初に管を抜いてあげたいと思ったきっかけはどういう思いだったのか、もう一度改めて伺いたい」と質問を投げかけ、家族の発言や反応を確認した。さらに家族の発言や反応から家族の思いを推察して代弁したところ、「安楽死という選択肢がとれるかとれないか」ということが家族の真意であることが明らかとなった。そこで「安楽死という選択肢がとれない場合、患者の苦痛を取る処置を最大限するということには納得できるか?」と質問し、家族は一様に頷く様子が見られた。
③医師-家族システムに戻して合意形成を図る

主治医からも現在の医療においては安楽死を前提とした抜管は実施できないこと、気管切開を実施するのが妥当であることを説明したところ、家族は一様に納得した様子で気管切開の同意書に署名をした。

【考察】今回の事例におけるターニングポイントとなった看護実践は【Jump in】であった。医師と家族間には<説得する-同意を渋る>という悪循環があったが、看護師の【Jump in】:家族が秘めている思いや願いを知るために、家族の懐に飛び込むことによって、医師-家族システムに変化をもたらすことができた。また、家族の真のニーズを知るきっかけになる重要な看護実践だったと考えられる。一方で【Jump in】は、看護師が医師-家族間の相互作用に入り込んで重大な決断に関わることであり、うまく飛び込めるのか、飛び込んだ先にどのような景色が広がっているのか、うまく着地できるのかというニュアンスも含まれており、看護師にとってエネルギーや覚悟が必要な看護実践でもあると思われた。