第22回日本救急看護学会学術集会

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一般演題

家族看護

[O7] 一般演題7

[O7-11] ペリネイタル・ロスを経験した自死遺族に対して救急看護師が実践する悲嘆ケアの検討

○長岡 孝典1、松尾 直樹1 (1. 独立行政法人国立病院機構呉医療センター)

Keywords:ペリネイタル・ロス、自死遺族、悲嘆ケア

【目的】
 妊産婦の自殺は妊産婦死亡例全体の7%と少なく、救急看護領域において、その家族支援について考察している文献も少ない。今回、縊頸で搬送された妊婦CPA症例の看護を実践したが、家族看護が十分にできたとは言い難い状態であった。そこで、自死遺族、ペリネイタル・ロスを経験した夫に対する悲嘆ケアについて振り返り、考慮すべき必要性があったため報告する。
【事例紹介】
A氏、30歳代女性(妊娠36週)
既往歴:うつ病
家族構成:夫、子ども2人
経過:最終目撃から8時間後、自宅で縊頸の状態で夫に発見され、B病院へ救急搬送された。来院後、自己心拍は再開せず、A氏と胎児の死亡確認を行った。
【用語の定義】
ペリネイタル・ロス:流産、死産、新生児死亡、人工妊娠中絶などによる児の喪失。
【倫理的配慮】
本研究は、B病院看護部の承諾を得ており、個人が特定されないよう十分配慮した。
【家族の反応】
夫:来院時より家族控え室で待機し、医師の説明時も思いつめた様子で俯き、時折頷く程度の反応であった。蘇生処置を中止した際も、特に発言はなく、子ども達の来院後も涙を流す様子はなかった。
子ども2人:検死後にA氏と面会し、泣いていた。
両家の両親:家族全員で医師から説明を受けた。A氏の母親はその場に泣き崩れた。
【看護の実際】
①来院時から、夫の側へ付き添った。夫自ら話をすることはなく、夫の思いや今後の事についてなどを話す機会はなかった。
②面会前に首元を寝具で隠すなど、最大限での整容を行った。
③死後硬直や縊頸により、様相の変化を起こしたA氏と対面する子ども達への影響を考慮し、まず面会希望を確認し、家族
 全員でA氏を囲み一緒に過ごせる時間を確保した。
④本症例について、看護師間でのデスカンファレンスを実施した。
【考察】
 周産期喪失後の父親は、ショック、不信、混乱などの様々な感情を抱く(Murphy,1998)。さらに、A氏、胎児という2つの命を同時に失ったことで、夫は自死遺族となり、複雑性悲嘆を起こしやすい状態であった。実際に他の家族と比較しても、夫の思いつめた様子や口数の少なさから、夫自身が大きな喪失を感じていることが伺えた。加えて、ペリネイタル・ロスを経験した夫は、さらなる喪失を感じていたと推測できる。そのため、自死遺族に対するケアとして、様々な複雑性悲嘆への可能性を踏まえ関わりを持つことが重要となる。しかし、今回、夫の側に寄り添ったが、夫の悲嘆反応は表面化されず、関わりの難しさを実感した。ペリネイタル・ロスを経験した父親は、自ら感情を表出することは少ないが、共感的な声掛けなど『感情の表出ができるような配慮』によって自分の感情に気付き、感情を表出することができる(河本,2018) 。そのため、救急看護師として初療室という短い時間の関わりの中で、告知の瞬間を側で支えることや夫の思いを落ち着いて聞ける環境を調整するなど、夫の心理的側面を理解し、感情表出ができる場を作ることが重要である。また、今回の第一発見者は夫であり、今後PTSDなどの重篤な精神症状が起こることが予測できる。そのため、第一発見者の夫に対し、注意を向け、今後のフォローアップを行うことが必要であり、他の家族へ夫の今後の精神症状に配慮するよう情報提供を行う必要があった。
 今回のような類例に乏しい症例について、今後産科医師や精神的ケアを専門とする看護師、臨床心理士などの多職種を交えてカンファレンスを行い、複雑性悲嘆やペリネイタル・ロスに対する家族への悲嘆ケアについて検討し、実践していくことが課題である。