第22回日本救急看護学会学術集会

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一般演題

家族看護

[O7] 一般演題7

[O7-14] ICUダイアリーを活用した家族への看護実践報告

○粟野 利枝1、福井 美和子1 (1. 筑波メディカルセンター)

Keywords:ICU家族看護、ICUダイアリー、救命ICU

<はじめに>

 ICUに入室した患者は、侵襲的な処置による苦痛や深い鎮静によって、ICUでの出来事の記憶が一部欠落し、不快な記憶として残る 。不快な記憶は患者の精神的苦痛の要因となり社会復帰の妨げになると言われている。このような不快な記憶に対するケアとして、医療者や家族が日記をつける試みをICUダイアリーといい、記憶の再構築やQOLの向上、患者だけでなく家族への心理的ケアになるという報告がある。今回、多発外傷で入室した患者の母親に対しICUダイアリーを導入し、母親の心のケアに繋げることができたため報告する。

<方法>

期間:2020年3月~5月 

患者紹介 :A氏20代女性。先天性の聴覚障害

現病歴:バイクで転倒し救急搬送された。診断名:外傷性肝損傷・気胸・肺挫傷

入室後、椎骨動脈解離による脳梗塞を併発

術式:開頭減圧術

倫理的配慮:本研究にあたって当院の倫理委員会に承諾を得た。

<結果>

入院日~入院9日目

 患者は挿管チューブによる苦痛・不眠を訴えていた。その様子をみて母親は、「私には何もできない。つらい思いをさせてしまった。」という言葉が聞かれた。母親は、涙を流す事も多く、ストレスレベルが高く支援が必要な状況であった。母親が、A氏に対し何かすることができたと感じられるように、手話の方法を教えていただくなど、母親がケア参画できるように介入した。さらに、母親の思いなどを共有できるようにICUダイアリーについて説明したところ「私にできるなら」と承諾を得られ、導入することになった。

入院9日目~15日目(HCU転棟)

 疼痛と不眠の調整が難しく、面会時間の調整や個室への移動を行い患者ができるだけ不安にならないよう、母親の協力も得ながら環境調整を行った。母親からは当初不安や悲しみといった言葉が聞かれていたが、時間経過とともに「ママも頑張るよ」とケア参加を実感する言葉がICUダイアリーに記されるようになった。導入時、ダイアリーは、医療者と母親とのやりとりであったが、転棟後には 患者がダイアリーを記載し継続していた。

一般病棟転出後

 入院36日目に患者訪問した。ICUでの記憶について聞くと、患者からは「ICUへの不快な記憶はなかった。時々入院生活が嫌になるけど、ICUの時の日記を見返すとこの時より良くなっている。頑張ろうって思えるから今は助かっています。」と話される。母親からは「ダイアリーがあるから、病院での様子もわかるし娘が書いた内容を読むのが楽しみです。それにICUでの様子も面会に来られない家族に伝えられてよかった。」と話される。

<考察>

 何をしていいか分からないと感じる母親に対し、A氏とのコミュニケーション方法に母親を巻き込むことで、ケアへの参加を実感させることができたのではないかと考える。ICUダイアリーは、本来患者がICUでの記憶と体験を補填するために発祥したものだが、一方、患者・家族にとっては、辛い出来事や気持ちを思い出すことにつながる恐れもあると言われており、導入は慎重にすべきである。今回、母親は、ダイアリーを通して気持ちの整理ができ、A氏や医療者とのコミュニケーションの手段となった。さらに、A氏自身も、ダイアリーを通して、記憶を修正し希望を持つことにも繋がっていたため、この家族にとっては効果的なケアであったと考える。一事例ではあるが、ICUダイアリーは、患者と家族のコミュニケーションの手段となり、気持ちを表出することでストレス緩和に繋がる可能性がある。また、医療者との関係性も良好に保つことができるのではないかと考える。