[PD2-01] 限界集落と住民の福祉−水源の里・綾部のコミュニティ・ナースを事例に−
Keywords:綾部市、水源の里、コミュニティ・ナース
本報告では京都府綾部市(人口31,711人。2020年6月現在)の限界集落の健康問題、とりわけ2017年から綾部市で導入されているコミュニティ・ナースの現状について報告する。
綾部市は、京都府北部の内陸部に位置し、由良川と里山が織りなす自然景観豊かなまち、上場企業である日東精工やグンゼの創業の地、宗教法人大本教発祥の地など多彩な顔をもつ(滋野 2020)。また、近年は蒲田(2016)が『驚きの地方創生』を著し、地方創生の分野でも注目を集めた(杉岡 2017)。何より本企画の関心に引きつけるならば、綾部市では「限界集落」という言葉を敢えて用いず、「上流は下流を思い、下流は上流に感謝する」という意味を込め「水源の里」という呼称を用いた。そして、2007年には全国初で「水源の里条例」を施行し、過疎・高齢化が進行しコミュニティの維持が困難となっている集落を対象に、①定住支援、②都市との交流、③地域産業の開発と育成、④地域の暮らしの向上という目標を掲げ、政策を展開している。この動きは瞬くまに全国に広がり、同年に「全国水源の里連絡協議会」という組織が設立され、現在157の自治体が名を連ねるに至っている。
水源の里はまちの市街地からは物理的に離れた地にある。したがって、構造的に交通・買い物・医療弱者が生まれやすい。しかし、綾部市では、「地方創生」という言葉が生まれるはるか前から水源の里を支援する取り組みを始めていた。そして、2017年には地域おこし協力隊の制度を応用し、コミュニティ・ナース(以下、コミナス)という取り組みを始めた(当初は3名いたが、現在2名)。コミナスの提唱者である矢田(2019)によれば、コミナスとは「看護の専門性を生かしながら、制度にとらわれることなく、街に出て自由で多様なケアを実践する医療人材」のことである。最大の特徴は病院ではなく、コミュニティに拠点を置いているところにある。実際に筆者がヒアリング調査を実施(2019月12月13日実施)してみたところ、その活動は非常に多岐に渡り、最初から看護活動は全体の活動のほんの一部であることが分かった。具体的には、まず①顔を合わせ、関係性を築く、②暮らしや健康の相談に乗る、③暮らしや生きがいについて共に考える、といったプロセスを踏んで初めて、住民の健康行動に変容が出ているという。したがって、現場では看護の知識やスキル以上のものが求められる。翻って、学校や病院だけではこれらのスキルを身に付けることはできず体系的な人材育成プログラムが確立されていない。加えて、綾部だけでも水源の里は16集落あり、圧倒的にコミナス人材の供給は足りていない。
近年「にぎやかな過疎」へ(小田切 2020)という言葉も出始めているが、水源の里が示唆する「川上」「川下」は単に過疎地に限定された話ではなく、それは「地方」と「都市」、あるいは「高齢者」と「若者」にも当てはまる。すなわち限界集落や高齢者の「今日」は、都市や若者の「明日」ということであり、地方自治の目的である「住民の福祉の増進」という観点では繋がっている。そのように考えると限界集落の健康問題とはまさに公共政策や地方自治の問題であり、まだまだ住民自治、団体自治共にはやるべきことが山積していると言わざるを得ない。
参考文献
小田切徳美(2020)「地域づくりと田園回帰・関係人口」『社会教育』888号、10-15、日本青年館
蒲田正樹(2016)『驚きの地方創生』扶桑社新書
滋野浩毅(2020)「「関係人口」との協働による集落運営」『農業と経済』4月号、71-78、昭和堂
杉岡秀紀(2017)「『京都・あやべスタイル』を体感する」『地域づくり』2月号、22−23、地域活性化センター
矢田明子(2019)『コミュニティ・ナース』木楽舎
綾部市は、京都府北部の内陸部に位置し、由良川と里山が織りなす自然景観豊かなまち、上場企業である日東精工やグンゼの創業の地、宗教法人大本教発祥の地など多彩な顔をもつ(滋野 2020)。また、近年は蒲田(2016)が『驚きの地方創生』を著し、地方創生の分野でも注目を集めた(杉岡 2017)。何より本企画の関心に引きつけるならば、綾部市では「限界集落」という言葉を敢えて用いず、「上流は下流を思い、下流は上流に感謝する」という意味を込め「水源の里」という呼称を用いた。そして、2007年には全国初で「水源の里条例」を施行し、過疎・高齢化が進行しコミュニティの維持が困難となっている集落を対象に、①定住支援、②都市との交流、③地域産業の開発と育成、④地域の暮らしの向上という目標を掲げ、政策を展開している。この動きは瞬くまに全国に広がり、同年に「全国水源の里連絡協議会」という組織が設立され、現在157の自治体が名を連ねるに至っている。
水源の里はまちの市街地からは物理的に離れた地にある。したがって、構造的に交通・買い物・医療弱者が生まれやすい。しかし、綾部市では、「地方創生」という言葉が生まれるはるか前から水源の里を支援する取り組みを始めていた。そして、2017年には地域おこし協力隊の制度を応用し、コミュニティ・ナース(以下、コミナス)という取り組みを始めた(当初は3名いたが、現在2名)。コミナスの提唱者である矢田(2019)によれば、コミナスとは「看護の専門性を生かしながら、制度にとらわれることなく、街に出て自由で多様なケアを実践する医療人材」のことである。最大の特徴は病院ではなく、コミュニティに拠点を置いているところにある。実際に筆者がヒアリング調査を実施(2019月12月13日実施)してみたところ、その活動は非常に多岐に渡り、最初から看護活動は全体の活動のほんの一部であることが分かった。具体的には、まず①顔を合わせ、関係性を築く、②暮らしや健康の相談に乗る、③暮らしや生きがいについて共に考える、といったプロセスを踏んで初めて、住民の健康行動に変容が出ているという。したがって、現場では看護の知識やスキル以上のものが求められる。翻って、学校や病院だけではこれらのスキルを身に付けることはできず体系的な人材育成プログラムが確立されていない。加えて、綾部だけでも水源の里は16集落あり、圧倒的にコミナス人材の供給は足りていない。
近年「にぎやかな過疎」へ(小田切 2020)という言葉も出始めているが、水源の里が示唆する「川上」「川下」は単に過疎地に限定された話ではなく、それは「地方」と「都市」、あるいは「高齢者」と「若者」にも当てはまる。すなわち限界集落や高齢者の「今日」は、都市や若者の「明日」ということであり、地方自治の目的である「住民の福祉の増進」という観点では繋がっている。そのように考えると限界集落の健康問題とはまさに公共政策や地方自治の問題であり、まだまだ住民自治、団体自治共にはやるべきことが山積していると言わざるを得ない。
参考文献
小田切徳美(2020)「地域づくりと田園回帰・関係人口」『社会教育』888号、10-15、日本青年館
蒲田正樹(2016)『驚きの地方創生』扶桑社新書
滋野浩毅(2020)「「関係人口」との協働による集落運営」『農業と経済』4月号、71-78、昭和堂
杉岡秀紀(2017)「『京都・あやべスタイル』を体感する」『地域づくり』2月号、22−23、地域活性化センター
矢田明子(2019)『コミュニティ・ナース』木楽舎