第22回日本救急看護学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD3] パネルディスカッション3

『119番の危機』

座長 中谷 茂子(医療法人マックシール巽病院 看護部 副院長)
   本田 可奈子(滋賀県立大学人間看護学部 基礎看護学講座 教授)

[PD3-03] 救急隊覚知データから見た大阪府における救急搬送の課題とその解決

○山本 啓雅1、木村 義成2、溝端 康光1 (1. 大阪市立大学大学院医学研究科 救急医学 、2. 大阪市立大学大学院文学研究科 地理学教室 )

キーワード:救急隊、搬送、GIS

令和元年版消防白書によると、平成30年(2018年)の救急自動車による全国の救急出動件数は約661万件であり、平成20年(2008年)に対して約150万件増加しており、十年間での出動件数の伸び率は約30%となっている。また同白書によると全国における入電~現場到達までの時間は7.7分(平成20年)から8.7分(平成30年)と1分増加しており、これに伴って病院収容所要時間も35分から39.5分と延長している。高齢化の進展により今後も救急需要の増加が予想される一方、自治体予算はひっ迫しており、より効率的な救急活動の利用や、救急隊の増設が急務である。

 我々はこれまで、大阪市消防局や堺市消防局と共同で、これら救急隊を取り巻く問題について課題を抽出し、それらの影響を分析するとともに、課題の解決について検討を行ってきた。特に、救急隊の現状分析や解決には地理情報システム(Geographic Information System : 以下GIS)を用いて、地理的特性からアプローチを行っている。

 大阪市や堺市でも、全国同様現場到着までの時間が延長しており、この問題をGIS上に可視化し、さらにどこに救急隊を増設すべきかの検討を行った。まず救急隊の現場到着時間をGIS上に展開し、どの地域で時間の延長が認められるかを検討した。さらに立地配分モデルを用いて、時間短縮に最適な救急隊の増設場所を求めた。

 また不要不急の救急要請が増加しているため、中等症や重症の救急搬送に影響を与えていることも問題である。大阪市では不搬送率が約2割と全国でも最悪となっており、これへの出動により、中等症や重症者が発生しても、遠方の救急隊が対応しなければならない事案が発生している。結果として200件に1件の中等症・重症が不搬送の影響を受け、かつこの影響については地域差があることが分かった。さらに今後不要不急の救急搬送についても分析を行っていく方針である。

 病院搬送についても、一部の傷病者に円滑な搬送が実施されないことがあり問題となっている。我々は消化管出血症例について平日昼間、平日夜間、休日で搬送時間や連絡回数が大きく違うことを報告した。さらにこれらの要因について地理的に分析を行うことによって、搬送が円滑に行われている地域や、時間帯ごとに搬送が遅延している地域、医療機関がないため搬送距離が長くなっている地域などに分かれることが分かった。これらの問題を解決するには、それぞれの地域に見合ったアプローチを行う必要があると考えられた。