第22回日本救急看護学会学術集会

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会長講演

[PL] 会長講演

「危機の時代と救急看護」

演者 作田裕美(大阪市立大学大学院看護学研究科 教授/滋賀医科大学医学部臨床腫瘍学講座 客員教授)

[PL-01] 危機の時代と救急看護

○作田 裕美1 (1. 大阪市立大学大学院看護学研究科 教授/滋賀医科大学医学部臨床腫瘍学講座 客員教授)

Keywords:危機の時代、救急看護

救急医療は、「事故や急病による傷病者に対して適切な医療行為を施行すること」であり、患者は耐え難い苦痛があるか、もしくは生命の危機が迫っているかなど極めて緊急性が高い状態であると考えられている。この救急外来に運ばれる人々の背景は年齢・性別・職業・社会的立場等々、千差万別である。さらに傷病の内訳に至っては、時代の経過とともに大きく変化した。高度経済成長期の救急搬送が始まった当初は、外傷・熱傷・中毒等の外因性の疾患が70%を占めていたが、現代では循環器や脳血管系の内因性疾患が多くなっている。外因性の原因も建設ラッシュの時代の労災事故・交通事故中心から、近年は微妙に変化している。DV、自殺未遂、親による虐待、大規模自然災害等々、患者となるに至った現象の背景は固有に見えて社会そのものであり、救急医療の場が社会の縮図といわれる所以である。私たちが看ているのは、対象患者その人であり同時に社会そのものであるといえよう。

本学術集会のメインテーマに、「危機の時代」を据えたのは、この救急医療の場に出現した社会の変容の姿を直視する必要があると感じたことによる。救急患者の抱える苦痛は、身体的心理的な耐えがたい苦痛であるが、その根は深く社会的痛みの結果といえるものではなかったか。平成年間の長きにわたるデフレ経済のもと、国民は相対的に貧困化したことは否めず、あらゆる局面に出現したのは格差であった。情報化、多様化、グローバリズムに対する国を挙げての妄信は、日本伝来の価値を軽視する風潮の土壌となったのではないかとすら愚考する。年々大規模化して繰り返される自然災害にも国を挙げて「本気の防災」に取り組めているとは思えない。医療政策に目をやれば、人口の高齢化に伴い、感染症中心の医療から慢性疾患中心の医療へと大きく舵を切った。「キュアからケアへ」、「医学モデルから生活モデルへ」を掛け声にパラダイムシフトした。

そのような中、期せずしてCOVID-19 の世界的流行を迎えた。社会・経済システムが機能不全に陥りかねない大災難である。地震による被害者も津波の被害者も水害の被害者もCOVID-19患者も救急外来に運ばれる。私たち看護師は社会が生み出す患者を看るのである。

ここでは、社会を読み解くことから、救急看護の今とこれからをとらえなおし、思考から発展する実践の可能性について述べてみたい。