第22回日本救急看護学会学術集会

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特別講演

[SL1] 特別講演1

「看護の開示ー危機は透明化のチャンスー」

演者 坂本すが(東京医療保健大学 医療保健学部看護学科 副学長)

[SL1-01] 看護の開示ー危機は透明化のチャンスー

○坂本 すが1 (1. 東京医療保健大学 医療保健学部看護学科 副学長)

Keywords:Game Changer(ゲーム・チュエンジャー)

Game Changer(ゲーム・チェンジャー)

2020年5月7日、覆面アーティストとして知られるバンクシーの新作が、イギリス南部のサウサンプトン総合病院に登場した。新型コロナウィルス感染症に奮闘する医療従事者にエールを送る作品として、世界中に報道された。筆者も医療従事者の一人として嬉しく思うと同時に、絵の名称がGame Changerである点に心が動いた。

Game Changer とは、スポーツ試合の途中で交代参加し、流れを一気に変えてしまうような選手をいう。転じて、これまで当たり前だった状況を大きく一変させるような人や企業を意味する。絵の中では看護師の人形を指しているようである。スパイダーマンやバッドマンがゴミ箱に捨てられている一方で、幼い男の子が手に取って遊んでいるのは、看護師の人形である。子供にとってヒーローが、これまでのスーパーヒーローではなく医療従事者、それも看護師になっていることを意味しているのではないだろうか。



これはかつてないことである。バンクシーに限らず、このコロナ禍で看護師への注目が高まり、多くの感謝の言葉を耳にしたことは嬉しさを超え驚きであった。なぜか――。なぜ今、人々は感染患者等のケアにあたるナースに感謝し、手をたたくのだろうか。

1つは、医療が見えるようになったこと。今回の新型コロナ感染症は老若男女すべての人が感染する可能性がある。これまで高齢者の問題と考えていた医療が突如自分事となり注目した。連日の報道も相まって、多くの国民が医療の世界を学んだのである。その結果、感染対策をはじめさまざまな病院の事情、多様な職種の医療従事者がいることを知り、その医療チームの中で看護師の動きが見えたのだと考えている。



ではなぜ看護師か。端的には数が多いからだ。医師も他の職種もみながんばっているけれど、数が少ない。見えたのは看護師。ある患者が言っていた。「医師は、隔離された部屋に電話で説明してくれるが、ナースはそばに来てくれる」。24時間そばにいる。まさに看護の原点だ。重要な場面に医師がかかわることはあっても、患者にとって頼れる存在であり、不安を解消してくれるのは看護師だったのである。それが見えた。

つまり、今般の未曾有の危機は、医療が透明化される機会となり、「看護」というもの、看護師の専門性が多くの人に理解されるチャンスであったと捉えている。『看護―ベッドサイドの光景』の著者である増田れい子氏の言葉を借りると、「何をしてくれるひとなのか、何ができるひとなのか、患者さんには看護婦の役割がもうひとつわからない」から「いまようやく病気をなおす過程は、医師の技術とか薬剤とか手術とかそういう医療だけではなくて、病んだ人間がいかに意欲をかきたてて生きようとするか、それが恢復やいのちの維持に大きく作用する」か。そこに看護があることを私たちは伝えなければならないと思う。

Game Changer。混とんとそれでいて変化の激しい中、社会の変革者の1人として、私たち看護師に期待を寄せる人がいる。より多くの人のニーズと期待に応えるために、私たちは自身の専門性をわかりやすく見えやすく開示していくことも責務である。