第22回日本救急看護学会学術集会

講演情報

シンポジウム

[SY1] シンポジウム1

『救急看護と二次的トラウマ』

座長 森田 孝子
(元横浜創英大学 看護学部 看護学学科 元学部長・教授/日本救急看護学会 監事)

   阿久津 功
(医療法人辰星会 枡記念病院 看護管理室 看護部長・災害救急医療部 副部長)

[SY1-03] 救急看護領域における二次的外傷性ストレスの予防とセルフケア 精神看護専門看護師の立場から

○武用 百子1 (1. 和歌山県立医科大学 看護キャリア開発センター 副センター長・臨床教育准教授・精神看護専門看護師)

キーワード:二次的トラウマ、惨事ストレス、セルフケア、救急看護師

全世界で新型コロナウィルス(COVID19)の感染拡大が進む中、日々医療の最前線で患者さんの治療に尽力されている医療従事者の皆様に、心から敬意を表するとともに、深く感謝を申し上げます。また、残念ながら感染によりお亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみを申し上げるとともに、罹患された全ての皆様に対し1日も早いご回復をお祈り申し上げます。

 筆者はこれまで、救急看護領域における二次性外傷性ストレス(Dominguez-Gomez&Rutledge 2009)についての研究を重ねてきたが、近年は共感疲労(compassion fatigue)の概念に注目し、看護師の共感疲労とセルフ・コンパッションの関連から、予防やセルフケアのあり方について検討している。

 看護師は職務を通じて、予期しない死(Healy&Tyrrell 2011, Scott 2013)、トラウマ(Bostrom et al. 2012, Hinderer et al. 2014)、暴力(Wu et al. 2011, AlBashtawy&Aljezawi 2015)などの、外傷性ストレスをもたらすような状況にしばしば遭遇する(Badger,J.M.2001)。そのような状況下でケアにあたる救急看護師は、外傷的な体験をした患者へのケアを通して、患者の心的トラウマを自分のもののように感じトラウマ性の反応が生じるのだが、多くは回復したり専門職としての対処能力を身に着ける。しかし一部の看護師は二次的外傷性ストレスに陥ることとなる(Sabo,B.M.2006)。

 この看護師の二次的外傷性ストレスについて、Figley(1996)は共感疲労(compassion fatigue)として、「重要な他者により経験される精神的ショックを与える出来事を知ることに起因する自然な結果として起こる行動と感情であり、精神的ショックを受けている、または苦しんでいる人を助ける、あるいは助けたいということに起因するストレス」と定義した。対人援助職である看護師は、悩みや問題を抱える患者に対して共感的態度をもって接するが、それは時に残存した共感ストレスにつながることがある。Figleyは、この残存した共感ストレスをコントロールしなければ、共感疲労の一因になるとしている。

 筆者は、看護師の共感疲労とセルフ・コンパッションの関連について、日本語版対人反応性指標(共感能力)およびPro-QOL尺度(共感性満足、バーンアウト、共感疲労を測定)と、どのような介入が影響するのかを検討するために、セルフ・コンパッション尺度と首尾一貫感覚尺度(SOC)を併せてパス解析を行った。その結果、共感疲労やバーンアウトについては、セルフ・コンパッションの方がSOCよりも影響力があり、特にバーンアウトについてはセルフ・コンパッションのみ有意に減少させる要因になっていた。

 シンポジウムにおいては、これらの研究結果の紹介と、これまでの救急看護師の研究結果を踏まえ、救急看護領域における二次的外傷性ストレスの予防とセルフケアについて提示したい。