第22回日本救急看護学会学術集会

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シンポジウム

[SY4] シンポジウム4

『救急領域におけるタスクシフト・タスクシェアを考える』

座長 芝田 里花(日本赤十字社和歌山医療センター 看護管理室 看護副部長)
   清村 紀子(大分大学大学院 教授)

[SY4-01] 医師の働き方改革がもたらす救急看護の変化

○加藤 正哉1 (1. 和歌山県立医科大学 救急集中治療医学講座 教授)

Keywords:将来ビジョン、特定行為研修制度、救急領域パッケージ

2017 年3 月に国の働き方改革実現会議で決定された、様々な職種における働き方改革実行計画の柱は、長時間労働是正のための労働基準法見直しである。これまで医療現場では、労働の中断が人命に直結するとの責任感から、献身的な過重労働や超過勤務が日常化していたが、2024年4月から医師の時間外労働規制が適応されることが決まり、それまでに医療体制を維持しながら医師の労働時間短縮を検討せざるを得ない状況にある。その具体的な方法として上げられたのが、他職種が実施可能な医師の業務を、現行制度の下で医師以外の医療専門職種に担ってもらうことと、実施できない業務を法改正によって実施可能とする、タスク・シフティングの推進である。

一方2015年には、医師に最も身近な医療職である看護師が判断可能な範囲を拡大することで、「患者へのタイムリーな対応」と「医師の業務の効率化」を両立し、地域において人々が安全に安心して療養することができる社会を実現する将来ビジョンを日本看護協会が提唱している。

日本救急医学会では、 救急医の働き方を改革すると同時に地域の救急医療を守る観点から、単に業務のタスクシフトや勤務形態の変更を伴う労務管理を進めるだけではなく、救急医療へのアクセスが一方的に増加することを漫然と容認せずに、 地域の住民、医師会、行政などに対して、適切な救急医療体制や医療連携のあり方をこの機に再考するための提言を委員会から報告した。そのなかであげられた対策は、

1.救急医個人と施設管理者の労務管理義務

2.日本救急医学会の会員と施設に対する労務管理への介入

3.在院中の自己研鑽時間設定を提案

4.タスク・シフティングの推進

5.救急医の働き方改革を実現するために社会への要望

の5項目である。

4番目にあげられたタスク・シフティングでは、医行為の担い手として看護師と救急救命士の医療資格者を考えており、前者は救急科に係わる診療看護師養成、後者は救急救命士制度を利用した病院勤務の救急救命士養成を視野に入れた制度設計や法令改正の作業を提案した。既に一部の医療機関で活躍が報告されている診療看護師(nurse practitioner: NP)制度を、「救急外来から入院早期」をターゲットとしてより多くの救急医療施設に広める為の方略が「看護師特定行為における救急領域パッケージ」である。比較的重症症例を扱う救急医療現場において必要とされる特定行為がまとめられており、気道確保及び人工呼吸療法に係る呼吸器関連行為、動脈血ガス分析関連行為に加えて脱水への輸液と抗けいれん薬の臨時の投与の9行為を組み合わせた326時間のパッケージ研修が行われる事となった。
第一線で救急医療を担っている医療機関は病院規模や設立母体、立地条件等により様々で、改善すべき医師の負担も、単純な勤務時間やシフト勤務を行う人数の問題ばかりではなく、診療の質や将来の救急医療体制、医師自身の教育のあり方等多くの課題がある。特定行為看護師や救急救命士にシフトしようとしている医行為には、初期臨床研修病院や大学病院において、研修医や医学生が習得すべき技能もあり、これらの研修機会を担保することも考慮しなければならない。他職種が医行為を分担することで医師の働き方を適正化することは、医師にとって大きなメリットとなるが、同時にタスク・シフティングを請け負う側でも、本来担うべき看護や病院前救護における高度な臨床実践能力を身につける機会と捉えたい。