第22回日本救急看護学会学術集会

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シンポジウム

[SY4] シンポジウム4

『救急領域におけるタスクシフト・タスクシェアを考える』

座長 芝田 里花(日本赤十字社和歌山医療センター 看護管理室 看護副部長)
   清村 紀子(大分大学大学院 教授)

[SY4-03] 法整備を想定した教育と院内救急救命士の働き方

○秋田 健太郎1 (1. 医療法人沖縄徳洲会 神戸徳洲会病院 救急救命士科 主任)

Keywords:院内救急救命士、タスクシフト・シェア、教育体制

神戸徳洲会病院(以下、当院)は、神戸市垂水区に位置する二次救急指定病院であり、2006年から救急救命士の院内採用を行っている。私は2009年に入職し、医療機関内の救急救命士として12年務めてきた。採用当初の救急救命士は救急外来での処置介助や一般外来での診療補助、一般病棟や療養病棟で看護助手業務をローテーションで行っていた。しかし、社会的な救急医療の需要増加に伴って、当院の理念である「断らない救急」の実行のため救急外来での需要が少しずつ増加していった。
現在は院内救急救命士の活動基準とプロトコールを策定し、救急の窓口としてホットラインの対応や救急外来におけるヒト・モノのコーディネート、処置介助、転院搬送の対応を主な業務としている。また、地域での蘇生講習会や医療講演も行っている。
 2013年に院内で救急救命士科立ち上げを目標とし、2つの課題に取り組んだ。1つ目は「救急外来における業務分担と円滑化」である。これは、救急要請の電話対応から重症度、緊急度に応じたベッドコントロール、医師や看護師の処置介助、検査案内、入院案内までを行い救急外来を円滑にまわすものである。2つ目は「救急車需要増加の負担軽減と地域医療との連携強化」である。これは、転院搬送や当院が協力・支援元である施設からの救急受診依頼に対して、病院救急車で対応するものである。
しかし、医療機関内で行われる医療行為のほとんどはこれまで学ぶ機会がなかったものであり、医療機関で必要な知識の不足が新たな課題となった。さらに、2つの課題を達成するために救急外来におけるマネジメント能力として「患者の状態を観察し把握する能力」「状況に応じて救急外来のヒト・モノを調整する能力」「他部署と連携し、関係を築く能力」「リスクマネジメント能力」が必要であると考えた。そこで、3つ目の課題として「医療機関で通用する救急救命士の教育」に取り組んだ。
まずは、医療機関内で勤務する職種として感染対策や医療安全対策など各委員会活動に参加した。役職者は医療安全管理者研修を修了するなど医療機関の一部署として標準的な知識獲得に取り組んだ。また、医療的な知識や技術においては救急救命士にクリニカルラダーを導入した。救急救命士科の教育課程は、一部を看護部のクリニカルラダー研修とタイアップさせている。年間を通して看護師と互いに指導し合い、医療的な知識・技術やホスピタリティ、コミュニケーション能力などを救急救命士も獲得できる教育体制を構築した。これらの取り組みにより、当院ではチーム医療の一員として他職種と協働できるようになり、一部署としての立場を確立できたと考えている。
 この10年で部署の立ち上げをはじめ、当院の救急救命士の働き方は大きく変化した。しかし、これには院内救急救命士として必要な教育の実施と、協働することを認識する組織の意識改革が重要であったと考えている。現に、法整備について議論された「救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」の中で、救急救命士には感染対策や医療安全対策、チーム医療、医薬品、医療機器に関する知識等は十分でないと指摘されている。今後、法整備がなされれば医療機関内において33項目の救急救命処置が可能となるため、今まで以上に他職種との協働や業務分担が重要視されていく可能性がある。
 現在、全国で採用されている院内救急救命士の業務は医療機関の規模や体制、ニーズによって様々であり統一することは難しい。しかし、法整備を想定した院内救急救命士の教育体制は、業務形態に関係なく統一されたものとして標準化されていくことが重要であると考える。