第23回日本救急看護学会学術集会

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第23回日本救急看護学会学術集会 [一般演題] » 1.救急外来看護③

[OD103] 1.救急外来看護③

[OD103-02] A病院救急外来で重症外傷患者のエンゼルケアに従事する看護師の思い

戸田 伽菜子1、吉岡 小百合1、○井芹 有希1 (1. 熊本赤十字病院救命救急センター)

Keywords:重症外傷、エンゼルケア、看護師の思い

Ⅰ.目的:A病院救急外来では重症外傷による死亡例があり、病棟より重症外傷患者のエンゼルケアを実施することが多い。外傷症例でのエンゼルケアは損傷や治療痕による外見の変貌が目立つことに加え、基礎教育や病棟経験と異なることが多く、看護師は様々な思いを抱えてエンゼルケアを行っていると予想されるが、先行研究は少ない。そこで、救急外来の看護師がどのような思いを抱きながらエンゼルケアに従事しているのかを明らかにすることを目的とした。
Ⅱ.方法:質的研究デザインとし、新人看護師以外で重症外傷患者のエンゼルケアの経験がある看護師3名に半構成的面接を実施。分析は逐語録を作成、コード化、共通性を検討しながらカテゴリー化を行った。また、A病院の研究倫理審査委員会の承認を得た。
Ⅲ.結果:A病院救急外来で重症外傷患者のエンゼルケアに従事する看護師の思いとして、181コード、28サブカテゴリー、8カテゴリーが抽出された。カテゴリーは、《患者・家族への戸惑いと後悔》《亡くなった患者の年齢により感じる死の受け止め方の差異》《患者・家族へのつらい気持ち》《外傷の経験・技術不足によるケアへの不安》《時間的余裕がなく感じるケアや家族対応の困難さ》《家族の心情をくみ取りたいという気持ち》《死を受け入れられるような支援をしたいという気持ち》《看護師としての役割と信念の自覚》から構成された。
Ⅳ.考察:通常、一般病棟では、患者・家族との関係性が構築されている場合が多く、気持ちに寄り添いながらエンゼルケアを行うことが可能である。しかし、本研究においては患者の死に対する喪失感や悲しみといった感情よりも、エンゼルケアが単なる業務になってしまい、患者・家族との関係性が築けていないまま行うケアに対して戸惑いや後悔を感じていることが分かった。
 A病院救急外来に搬送後、死亡した外傷患者の中には、開胸・開腹後の手術痕だけでなく、四肢の開放骨折や顔面損傷など整復が困難な例も多く、処置が難しいと感じたり、エンゼルケアの正解が分からないと悩んだりする思いも抽出された。立野ら(2008)の調査では、我が国の看護師は外傷患者への対応に必要な知識と技術のなさを感じていること、外傷患者の対応に関する専門教育の受講経験はいまだに少なく、外傷看護学として専門的な教育をほとんど受けていないことが報告されている。外傷の処置方法など求められる知識や技術は多いにもかかわらず、それらを学ぶ機会は少ない状況が、看護師の困難感や不安を助長させ、エンゼルケアに対して葛藤を抱く結果となっているのではないかと考える。
 また、年齢を問わず《患者・家族へのつらい気持ち》というカテゴリーが抽出されたが、中には、事故による若年層の死に遭遇することがあり、若い患者への外傷に対する抵抗や、若年層の死に対するつらい気持ちが増強されるといった思いが聞かれた。看護師はその人が元気なままで生きていた場合のその後の人生に思いを馳せて、つらい気持ちや居た堪れない気持ちを抱いており、その後の人生を想起させやすい小児や若年層であると、つらい気持ちが増強されると考えられる。
 一方で、身体の損傷が激しい場合は、対面する家族の衝撃を軽減するために、初療で家族と対面させるタイミングの調整や、そのための環境調整などを行い、家族と患者が静かな時間を過ごせるようにしていた。このように、外傷による容姿の変化に対して家族が受ける心的外傷に配慮する気持ちに関しては、重症外傷例のエンゼルケアの特徴的な思いであると考える。
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