第23回日本救急看護学会学術集会

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第23回日本救急看護学会学術集会 [一般演題] » 1.救急外来看護④

[OD104] 1.救急外来看護④

[OD104-04] 急性冠症候群患者の発症から受診までのプロセス―早期受診を促す教育プログラムの構築を目指して―

○大串 晃弘1、野村 宜伸2、平野 絵美2、作田 裕美3 (1. 四国大学、2. 大阪府済生会千里病院、3. 大阪市立大学)

Keywords:急性冠症候群、早期受診、教育プログラム

【目的】急性冠症候群(以下ACS)は、発症から再灌流までの時間(総虚血時間)を短縮することで生命予後が改善することが報告されている。特に、総虚血時間の多くを占めるACS発症から受診までにかかる時間を短縮することは、啓発活動を行う上で非常に重要である。海外における先行研究では、ACS患者の受診遅延の実態は明らかにされつつあるが、医療システムの異なる日本では十分検討されておらず、啓発活動の方向性は不透明なままとなっている。そこで本研究は、ACS患者の発症から受診までのプロセスを明らかにすることを目的とし、ACSを発症した患者1名に対し面接調査を実施した。発症から受診までのプロセスが明らかになることで、早期受診を目的とした啓発活動やACSハイリスク因子を持つ患者に対する教育の基礎資料になると考える。
【方法】ACS患者1名に対しインタビューガイドを用いて半構造化面接を行った。インタビューでは、発作が起きるまでの経過、発作が起きた時の状況、発作が起きてから受診までの経過などを研究対象者に確認した。研究対象者の語りはICレコーダーを用いて録音し、その内容を基に逐語録を作成しデータとした。データは研究者が数回読み返し、研究目的であるACS発症から受診までのプロセスに関連する部分を抽出し、質的帰納的に分析を行った。本研究は研究者の所属機関および研究対象施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】A氏、60代男性、独居、喫煙中。ST上昇型心筋梗塞と診断され入院となり、責任血管である#7に対して経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が施行された。基礎疾患は高血圧症、脂質異常症、前立腺肥大症、狭心症があり、狭心症に対するPCIの入院歴があった。入院8日目に面接調査を実施した。A氏はACS発症の数か月前から歩行時に胸部の違和感を自覚していたが、休憩により症状が治まるため気にかけていなかった。発症前日の夕方には、家から駅までの距離を歩行することで、疼痛とは異なる押さえつけられるような症状が胸部に出現していた。家に帰宅し休憩すると症状は軽減したが、胸部の違和感は継続していた。症状は持続していたが自制内と考え、いつも通りの時間に就寝していた。入院当日の朝は、仕事が休みであったため自宅で休んでいたが、症状が徐々に強くなっていることを自覚していた。その際、以前に経験した狭心症の症状と似ていることを思い出し、狭心症が再発したと考え、昼過ぎに自ら救急車を要請し救急搬送となった。ACS発症から病院到着までの時間は21時間41分であった。
【考察】安静により症状が治まる経験はA氏の受診の判断を遅らせていたと考えられた。また、疼痛ではない胸部の違和感も同様に、受診の判断を妨げる要因になっていたと考えられた。A氏の場合、狭心症で入院した際に患者指導が行われていると思われるが、医療従事者の説明が十分伝わっていない可能性も考えられた。ACS発症時における受診の判断は症状の性質や経時的変化の影響を受けるため、A氏の様にハイリスク因子を持つ患者でも発症時に適切な行動をとることは難しいと思われる。そのため、患者がACS発症から可能な限り早期に受診の判断をするためには、胸痛や重圧感といった典型的な症状を説明することも重要であるが、「普段の生活と異なる違和感」といったレベルで多様な症状が出ることを説明する必要性が示唆された。
【結論】ACS発症時の症状の性質や経時的変化は、患者が受診を判断する際に影響を及ぼす要因の1つとして考えられた。患者がACS発症時に適切な行動を取るためには、ACSの症状の特徴を強調して説明する必要性が示唆された。