第23回日本救急看護学会学術集会

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第23回日本救急看護学会学術集会 [一般演題] » 11.その他③

[OD1103] 11.その他③

[OD1103-01] 病棟入院患者急変時における看護師の臨床推論プロセス ~VR視聴による場面想定法を用いて~

○園田 拓也1、山勢 博彰2、田戸 朝美2、立野 淳子1 (1. 小倉記念病院、2. 山口大学大学院医学系研究科)

Keywords:患者急変、臨床推論

【はじめに】近年、臨床推論というキーワードが看護師の世界で注目されている。臨床推論とは、患者情報を収集および分析し、情報の重要性を評価し、代替行動を比較検討するために、形式的/非形式的の思考方略を使用する複雑な認知プロセスと定義される。看護師が臨床推論を活用できる代表的な場面に、入院患者の急変対応があるが、患者急変というペースの速い複雑な臨床状況で問題解決するために、看護師がどのような認知プロセスを使用するかを特定する研究は行われていない。

【目的】病棟に入院する患者が急変した際における、看護師の臨床推論の認知プロセスを明らかにする。

【方法】スクリプト理論を基盤とした認知プロセスを仮説モデル化し、この仮説モデルに基づいて場面想定法を用いた患者急変シナリオ動画をVirtual Reality(VR)で作成、それを対象者が視聴した後で、患者急変時の認知プロセスや対応について質問紙調査を行った。対象者は、一般病棟、救急部に勤務している1年以上の看護実務経験を有する看護師とした。動画は仮説モデルに基づき《急変患者の第一印象から初期予測する認知プロセス》《患者の情報収集から仮説形成に至る認知プロセス》《追加情報から仮説検証を行う認知プロセス》の3部構成とした。質問紙はシーン毎に『直感的初期予測』『直感的/分析的仮説形成』『直感的/分析的仮説検証』等を測定する項目で作成し、複数回答法および5件法、自由記述で回答を求め、データは単純集計または内容分析後、統計的分析を行った。

【倫理的配慮】本研究はA大学倫理審査委員会の承認を得た。

【結果】対象者は「病棟看護師」31名、「救急看護師」31名の計62名であり、それぞれ看護師経験年数別に「1年以上5年以内群」「5年以上10年以内群」「10年以上群」の3群を抽出した。《急変患者の第一印象から初期予測する認知プロセス》では、捉えた視覚的情報数(全29項目)に有意な差こそ認めないものの、「10年以上群」が平均13.9項目と多かった。『直感的初期予測』は、「10年以上群」が得点平均4.0(p<0.01)で有意に高かった。また、初期予測後の行動については388の自由記述内容が抽出され、1人あたりの平均データ数は「応援要請(1.34個)」「初期対応(1.26個)」のカテゴリーが多かったが、「10年以上群」は、「身体診察(1.41個)」「周辺観察(1.29個)」のカテゴリーで多かった。《患者の情報収集から仮説形成に至る認知プロセス》では、『分析的仮説形成』よりも『直感的仮説形成』が得点平均3.6(p<0.05)と有意に高かったが、「1年以上5年以内群」内の「病棟看護師」のみ『分析的仮説形成』が得点平均3.6で『直感的仮説形成』よりも高かった。《追加情報から仮説検証を行う認知プロセス》では、『直感的仮説検証』よりも『分析的仮説検証』が得点平均3.5(p<0.01)と有意に高かった。

【考察】経験年数が高い看護師は、第一印象の場面で得られる視覚的情報数も多く、直感的に緊急度や重症度を初期予測することができるため、推論した内容によっては、更なる情報を得てから初期対応や応援要請を行うというスクリプトが活性化されていることが示唆された。看護師経験・急変経験の少ない病棟看護師は、数少ないパターン認識で疾患スクリプトを活性化しつつも、網羅的な問診やバイタルサインの測定、身体診察を必要としており、探り探りの推論を展開する傾向であることが示唆された。想起した疾患スクリプトをどのように適合させていくかについては、できうる限り情報収集し吟味して最終的な意思決定を行おうとしている傾向が示唆された。