第23回日本救急看護学会学術集会

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第23回日本救急看護学会学術集会 [一般演題] » 5.重症患者看護③

[OD13] 5.重症患者看護③

[OD13-02] 気管切開やせん妄によりコミュニケーションが困難な患者への看護を振り返る

○本橋 秀和1、辻 守栄1、三枝 香代子2 (1. 千葉県救急医療センター、2. 千葉県立保健医療大学)

Keywords:せん妄、コミュニケーション、気管切開

I.目的
 ICUに入院する患者は、人工呼吸器装着や気管切開、術後合併症等による長期経過に伴い言語的コミュニケーションが障害されていることが多く、筆談や文字盤等の代替え手段を用いて意思疎通を図ることもしばしば見られる。A氏は、大動脈解離術後に合併症を発症し、気切チューブ・人工呼吸器管理中であった。A氏は、全身状態の増悪と改善を繰り返し、せん妄も遷延化していた。A氏は苦渋表情を浮かべ、落ち着かない時も多く、訴えが捉え切れないことに葛藤を抱いた。少しでもA氏が安楽になるようにとA氏の反応を見ながらケアを実施した。また、A氏の嗜好に合うと考えられた看護ケアを追加し継続的に行った結果、せん妄が改善し、徐々にコミュニケーションが図れるようになった。本事例を通し、患者のニードを捉えたケアの重要性が示されたためここに報告する。
II.方法:事例検討。
Ⅲ.倫理的配慮:公表にあたり施設の看護局研究倫理審査の承認を得た。氏名は個人と関係のないアルファベットを用い、年齢は年代で表示を行うことで個人が特定されないよう配慮した。
Ⅳ.結果
患者:A氏70歳代女性。診断名:急性大動脈解離、腸管虚血、潰瘍性大腸出血
看護介入時期:2019年度の3ヶ月間 
看護の実際:急性大動脈解離術後に腸管虚血を発症し、創傷治癒遅延を生じていた。感染が遷延し、敗血症の悪化と軽快を繰り返していた。気管切開が施行され、人工呼吸器が装着されていた。せん妄も遷延化した。口唇術で何かを訴えようとしており、文字盤や筆談を用いたが、筋力低下により文字板の指差しや書くことができず、易怒的となりA氏の訴えを読み取ることができなかった。Intensive Care Delirium Screening Checklist(以下、ICDSC)は7点であった。長期人工呼吸器管理や床上安静により呼吸補助筋の緊張や全身の筋緊張も見られた。A氏の呼吸補助筋の筋緊張緩和とリラクゼーションを目的とした上半身の温罨法、足浴、腰背部のマッサージを定期的に行った。A氏は保清ケアを好み、洗髪は隔日で実施した。A氏からは口唇術で「さっぱりした」「気持ち良い」と話され、ケア後は、表情も穏やかになった。過活動せん妄も出現していたため身体拘束を実施していたが、見守れる時間帯は抑制帯を外し、抑制を解除する時間を延長していった。家族より入院前の生活や趣味などについて情報収集を行った。A氏の趣味は、花を見たり、登山や孫と遊ぶこと、写真を撮ることであった。そのため、院内の庭にある桜や花を見るために、ベッドでの散歩をケアに取り入れ、孫や桜の写真を病室の見える位置に飾るなどした。A氏は口唇術で 「(桜の写真を見ながら)綺麗、ありがとう」と話され、笑顔も見られるようになった。継続的にケアを実施し、ICDSCは4点まで改善され、文字盤や指文字等を用いて意思表示ができるようになり言語的コミュニニケーションも図れるようになった。
Ⅴ.考察
 A氏に少しでも安楽になってもらいたいという思いで、患者の反応を見ながら安楽ケアを実施し、 家族から入院前の生活や趣味に関する情報収集を行い、ケアを追加修正し実施したことで、患者のニードに沿った個別性を考慮したケアへとつながった。患者のニードに沿ったケアの提供が、患者のストレスを緩和させ、せん妄の改善につながり、言語的コミュニケーションの改善につながったと考える。言語的コミュニケーションが困難な患者のニードを捉えるためには患者の表情や言動等の反応を注意深く観察し、看護ケアを提供すること、患者の入院前の生活や嗜好を早期からケアに導入することを検討し実施することが重要であると考える。