第23回日本救急看護学会学術集会

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第23回日本救急看護学会学術集会 [一般演題] » 5.重症患者看護③

[OD13] 5.重症患者看護③

[OD13-03] 妄想的記憶が生じなかった長期人工呼吸器装着患者の一例

○石山 亞耶1 (1. 国立病院機構九州医療センター)

Keywords:PICS、ICUメモリーツール、妄想的記憶

【はじめに】
ICU滞在中の患者の記憶は、事実の記憶、感情的記憶、妄想的記憶に分類される。妄想的記憶は人工呼吸器管理の患者の三分の一に見られPICS(集中治療後症候群)の症状であるうつやPTSDなどの精神障害に関連するとされている。
A病院では早期離床リハビリテーションチームを中心に、ABCDEバンドルの実践によるPICS予防を目指し、ICUメモリーツールを使用して患者の記憶を整理するよう努めている。多くは先行文献の通り記憶の欠如や妄想的記憶が生じる事が多いが、今回16日間ICUに滞在した長期人工呼吸器装着患者で記憶の欠如や妄想的記憶が生じなかった事例を経験した。
【倫理的配慮】
個人情報保護と学会発表について対象者に口頭、書面で説明し承認を得た。また、個人が特定できないよう十分な配慮を行った。
【症例と介入の実際】
40歳代男性、肺炎、ARDSで入院し人工呼吸器を装着した。APACHEⅡスコア20点。
7病目まではRASS-4、8病日目より鎮痛を徹底しRASS0で管理した。この頃から早期離床リハビリテーションチームが介入し、段階的に離床に取り組んだ。コミュニケーションは筆談で、患者とケアの時間を調整し、鏡を用いてルート類の説明を行った。その中で入院から現在に至る状況を説明し、必要時は医師に現状の説明を依頼した。ルート類に対する理解が得られていたため、抑制帯は行っていない。日中はテレビの視聴や、リハビリチーム介入以外も自発的に下肢の運動を行った。睡眠は、薬剤調整を行い熟睡感が得られていた。14病日目に気管チューブを抜管し、15病日目にICUを退室した。せん妄はなかった。
【ICUメモリールの結果】
ICUに滞在していたこと、ICU入室中の出来事について「覚えている」と回答した。覚えている内容は、事実の記憶9項目、妄想的記憶0項目、感情の記憶0個、ICUから一般病棟に移った時の記憶「はっきりある」と回答した。
【考察】
妄想的記憶は、「ICU滞在日数」「人工呼吸器管理日数」「若い年齢」などがリスク因子となり、患者は妄想的記憶出現のハイリスクであった。一日一回鎮静を中断する鎮静管理となり不必要な鎮静剤投与がなかったことが記憶の欠如を防いだ可能性がある。一方で、浅鎮静は患者のストレス経験が強くなるリスクもあったが、早期にコミュニケーション方法を確立したことは患者のストレスを軽減させる一因となったと考える。多くの患者は重症な状態から回復する際に記憶を再構築するといわれる。コミュニケーションの確立により、入院までの経過や現状を知り、正しい記憶の再構築が可能となったのではないかと考える。
睡眠の確保や疼痛管理、テレビやカレンダーなどを使用したリアリティオリエンテーションはいずれもPADISガイドラインに沿ったベストな介入であったといえる。しかし、これらはあくまでもICUでの生活を整えるための前提に過ぎない。本患者は、1日何十枚もの筆談用紙でコミュニケーションをとっていた。患者に合わせたケアの提案や、処置に対する疑問、冗談など細かなコミュニケーションをとることで、患者の背景や人柄が把握できるようになっており、これがICUという環境での患者の不快を減少させ、快の提供を可能にしたのではないかと考える。
【おわりに】
これまで、ABCDEバンドルやPADISガイドラインを参考にした介入を実践してもなお妄想的記憶が出現した症例を複数経験した。
今回の症例を経験し、バンドル等はICUでの生活を整える前提であり、これらを実施した上でさらに患者に寄り添う介入が妄想的記憶の予防につながることが考えられた。