第23回日本救急看護学会学術集会

Presentation information

オンデマンド配信講演

第23回日本救急看護学会学術集会 [一般演題] » 3.トリアージ①

[OD301] 3.トリアージ①

[OD301-01] 嘔気・食欲不振を主訴で救急外来を受診した高齢者のトリアージに関する一症例

○松尾 直樹1 (1. 独立行政法人国立病院機構呉医療センター)

Keywords:トリアージ、心筋梗塞、高齢者

Ⅰ.目的
 急性心筋梗塞は、見逃してはならない院内トリアージレベルが高い疾患である。その多くは、胸痛を主訴として救急外来を受診する。しかし、高齢者では非典型的な症状が出現することがあり、全身倦怠感、食欲不振などが唯一の症状になることもある。そのため、高齢者の院内トリアージでは、その特徴を踏まえ、緊急度を判定していく必要がある。
今回、嘔気・食欲不振を主訴とし救急外来を受診した高齢者の症例を振り返り、緊急度の判断について検討した。
Ⅱ.倫理的配慮
A病院看護部の承諾を得ており症例は個人が特定されないよう配慮した。
Ⅲ.事例
70歳代男性。数日前からの嘔気・食欲不振を主訴に救急外来を受診。
【院内トリアージ判定】 第1印象 問題なし。意識:清明、呼吸:18回/分、血圧:103/66mmhg、脈拍:134回/分、SPO2:97%、体温:36.6度。 
【SAMPLE:病歴聴取】S:数日前、突然の嘔気、食欲不振。A:なし。M:抗凝固薬、高血圧薬、糖尿病薬。P:脳梗塞、高血圧、糖尿病、脂質異常症。L:受診当日朝にお粥。E:嘔気のみ。
【嗜好品】喫煙歴10本/日、飲酒歴なし。
【成人用JTAS】【消化器系】の『食思不振』「全身状態良好」で院内トリアージレベル4(低緊急)、【消化器系】の『嘔吐および嘔気』「慢性的な嘔気・嘔吐、バイタルサイン正常」で院内トリアージレベル5(非緊急)。総合的に判断し院内トリアージレベル4と判定。
【臨床経過】来院30分後医師診察開始。
検査データ:Na134。K6.6 。CRP5.86。AST42。ALT49。T-cho133。NT-proBNP6554。Glu115。LDH430。BUN53.5。CRE2.25。CRP5.86。CK273、CK-MB27。
トロポニンT+。12誘導心電図検査:ST上昇。心エコー:下壁の壁運動異常。
緊急で冠動脈造影検査し右冠動脈狭窄がありPCIを施行。
Ⅳ.考察 
 本事例を緊急度判定から振り返る。心筋梗塞における嘔気の発症機序は、冠動脈閉塞あるいは左室壁に広く分布する迷走神経反射の一端であるとされており、下壁梗塞の随伴症状である。本事例は、主訴は嘔気、食欲不振のみであり、嘔気が出現した数日前から心筋梗塞が起こっていた可能性が高い。主訴から消化器疾患が想定し院内トリアージを行ったが、急性冠症候群の25%は胸痛以外が主訴で来院するといわれている。60歳以上の男性は感度47~74、特異度54~68、尤度比1.5でリスク要因である。坂本らは、65歳以上の患者では、糖尿病・高血圧・喫煙・高コレステロール血症・冠動脈疾患家族歴の中の4つ以上の危険因子がある場合の正の尤度比は1.09でそれほど高くないため診断寄与に影響を及ぼさないが高齢者では他のリスク因子がないからといって安心できず、高リスク群であると心得る必要があるとしている。一般的に、「嘔気」は消化器疾患にとらえられやすく、当院の院内トリアージシステムでも「消化器系」を選択しやすい現状があり、本事例のように緊急度を低くする可能性がある。しかし、高リスク群に当てはまる場合は冠動脈疾患の可能性を念頭に置き、緊急度を判定する必要があることがわかった。そのため、当院では「嘔気」「食欲不振」のみでもリスク因子を考慮し、緊急度判定のために早期に心電図検査をし、また、院内トリアージ検証で非典型的な心筋梗塞に対しての症状も検討している。そのことで、非典型的な症状の心筋梗塞も早期に治療介入できている。本事例を踏まえ、非典型的な症状であっても高齢者の特徴やリスク因子から早期に心電図をとるなどし、広い目線で院内トリアージをできるようにしていく必要がある。