第23回日本救急看護学会学術集会

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第23回日本救急看護学会学術集会 [一般演題] » 6.家族看護①

[OD601] 6.家族看護①

[OD601-03] 重症・救急患者家族のニードがCNS-FACEでは顕在化しなかった一例

○平家 歩美1、西本 麻衣子2、笠井 有希2 (1. 地方独立行政法人広島市立病院機構 広島市立広島市民病院集中治療室、2. 地方独立行政法人広島市立病院機構 広島市立広島市民病院救命救急センター)

キーワード:CNS-FACE、家族援助

Ⅰ.目的
 重症・救急患者家族も持つ家族は、精神的な危機的状態に陥りやすい。家族が危機を回避または乗り越えられるようにするためには、家族の持つニードに着目して家族援助を行う必要がある。今回、看護師は患者家族の安楽・安寧のニードが高いと予測したが、CNS-FACEで分析した結果、安楽・安寧のニードは顕在化しなかった。本事例を振り返り、ニードが顕在化しなかった要因を明らかにする。
Ⅱ.方法:事例検討
 2020年1月にくも膜下出血gradeⅤで入室したA氏、40歳代の男性。入室時には脳死状態であった。A氏は、B県に転勤したばかりで独居である。家族構成は、遠方のC県に母親が在住しており、父親は他界している。入院中は、母親と父親の妹にあたる叔母が2人で付き添いをしていた。
 本事例では、家族との関わりを振り返り、重症・救急患者家族のニードを明らかにするためCNS-FACEにより分析を行った。倫理的配慮として、データ分析は個人が特定されることのないよう配慮し、プライバシーの保護に努めた。家族へは研究の目的、方法、研究の実施と公表について文書を用いて説明し、自由意思による同意を得た。また自施設の倫理審査委員会の承認を得た。
Ⅲ.結果
 入院当日の夜、母親と叔母が来院し、放心した様子でA氏に付き添っていた。母親は疲労感が強いように見えたが、休息について確認しても「大丈夫です」と答えるのみで、看護師からの声掛けに対しては言葉少なに話す程度だった。母親に話しかけても叔母が答える場面が多く、医療者に質問するのは常に叔母からだった。
 ニードを明らかにして家族援助を実践するためにCNS-FACEにより分析した結果、安楽・安寧のニードは0だった。しかし、母親が遠方から来院していることや、知人のいない見知らぬ地で付き添いをしていることなどから、看護師は安楽・安寧のニードが高いと予測し、付き添い環境が整えられるように家族援助を行った。その後、その他のニードは変化がみられたが、安楽・安寧のニードは0で推移した。
Ⅳ.考察
 今回の事例では、看護師の予測した安楽・安寧のニードが、CNS-FACEの安楽・安寧のニードの推移に反映されていなかった。その要因として、叔母が母親の気持ちを代弁したり、質問することで、母親のニードが充足されていたことが考えられる。これは社会的サポートのニードや情緒的サポートのニードが上昇しなかったことからも言える。また、潜在的な安楽・安寧のニードに早期に介入したことで、ニードが顕在化しなかった可能性もある。CNS-FACEは看護師としての鋭い観察力と的確な判断力を発揮し、意図的に関わることで、より精度の高い行動評定を行うことができる。この意図的な関わりが少なかったことも、要因のひとつと考えられる。母親と叔母は常に一緒に付き添っており、双方のニードを個別に分析することができていなかった。互いに遠慮しあい、本当の気持ちが言動や行動に現れなかった可能性もある。互いのニードを明らかにすることで、より多角的な視点から援助することができたと考える。
 CNS-FACEによりニードを効果的に分析し家族援助を実践するには、家族への意図的な関わりが重要であり、そのためには高いコミュニケーション能力や深い洞察力、多くの知識や経験が求められる。潜在的なニードにも着目し、顕在化させるよう意図的な関わりをしていくことが今後の課題である。