第23回日本救急看護学会学術集会

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第23回日本救急看護学会学術集会 [一般演題] » 6.家族看護②

[OD602] 6.家族看護②

[OD602-02] 新型コロナウイルス感染症重症患者を亡くした家族の体験の1例

○松本 亜矢子1、山口 彩1、又村 恵1、谷田 明美1、堀口 智美2 (1. 金沢大学附属病院、2. 金沢大学医薬保健研究域保健学系)

Keywords:新型コロナウイルス感染症、重症患者、死別、家族、体験

<目的>
 新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019;COVID-19)に対する治療薬は未だ開発段階にあり、患者は重症化して死に至ることがある。感染対策の面から面会が制限され、家族は患者と直接会うことはできず、患者の病状などを知る手段が限られている。そのような中で、患者が重症化した際には、人工呼吸器やECMO(体外式膜式人工肺)の使用を始めとする代理意思決定をしなければならない。また、一般的な病死とは異なり、望むような看取りができないこともある。そのため、一般的な重症患者の家族に対する支援では十分でない可能性があり、COVID-19重症患者の家族を理解した上での支援を充実させていくことは重要な課題である。そこで、本研究はCOVID-19重症患者を亡くした家族がどのような体験をしたかを明らかにすることを目的とした。
<方法>
 対象はCOVID-19にて亡くなった重症患者の家族(患者の配偶者)1名とし、本研究に関する説明を書面にて行い同意を得た。研究方法は質的因子探索研究であり、「ご家族がCOVID-19と診断された時のお気持ちをお話しくださいますか」という言葉を皮切りにして非構造化面接を行った。録音した面接内容を逐語的に書き起こし、面接時に観察された研究参加者の雰囲気や表情、仕草を記録しデータとした。分析方法はGiorgiによって示された現象学的アプローチを参考に行った。参加者の体験に関する意味単位を取り出し、それを特徴づける参加者の言葉で表した。参加者の言葉を抽象化し研究者の言葉や概念に置き換えながら意味単位ごとに記述を行い、それぞれの中心的テーマを見出した。体験全体とテーマ間の本質的な関係を洞察しながら、現象の全体構造を統合し、ストーリーとして記述した。本研究は所属施設の医学倫理審査委員会の承認を得て実施した。
<結果>
 COVID-19重症患者を亡くした家族の体験は10個の中心的なテーマ(【】内に示す)からなり、【実態がわからない現実に否応なしに引き戻され日常生活もままならない】【良くない推測から少しでも解放されたい】【目まぐるしい生と死の想定に消耗する】【情報を得たい気持ちと医療従事者への気兼ねに葛藤する】【感染者家族であることに引け目を感じ鬱々する】【家族に気を遣い家族と距離をおく】【心がついていかないままに求められてした代理意思決定に確信がもてない】【患者への思いが入り交じる】【コロナによる死を認める怖さに1人耐える】【コロナによる死をどうにか受け入れられたらと藻掻く】であった。家族は患者に関する限られた情報から患者を思い浮かべ思案し、患者の急激な状態変化により疲弊していた。そして、COVID-19という特殊性のために医療者・家族・周囲の人々に遠慮し、分断された中で様々な思いを一人で抱え苦悩していた。
<考察>
 COVID-19重症患者を亡くした家族は、患者と入院中に直接会うことができず、電話連絡などによる医療者や患者からの僅かな情報のみで患者の状態を想像せざるを得ず不安が絶えることはなかった。さらに、COVID-19ではその特殊性から医療者や家族、周囲の人々と物理的距離があるゆえに、それが心理的距離ともなり様々な思いを一人で抱え苦悩していた。そして、一般的な病死ではないために患者の死を受け入れ難くさせていることが明らかになった。医療者は、COVID-19重症患者を亡くした家族が限られた情報による想定の中で疲弊し、家族や周囲からも分断された中で一人苦悩しているという体験を十分理解し、患者の入院中だけでなく死後も家族へのケアを行っていくことの重要性が導き出された。