第23回日本救急看護学会学術集会

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第23回日本救急看護学会学術集会 [一般演題] » 9.医療安全②

[OD902] 9.医療安全②

[OD902-03] 呼吸器関連の特定行為に相当する有害事象の法的責任とリスク要因の検討

○山田 君代1、石原 啓之2 (1. 医療法人 渡辺医学会 桜橋渡辺病院、2. 滋慶医療科学大学大学院 医療管理学研究科)

キーワード:advanced nurse、特定行為、呼吸器関連、法的責任、有害事象

<目的>特定行為研修を修了した看護師(以後advanced nurse;AN)の誕生は、医療の役割構造に変化をもたらし、医療の安全性という新たな問題発生の可能性が示唆されている。そこで、1)ANが特定行為を実施するうえでの法的責任のあり方、2)医療安全上の問題点とその解決策の検討を目的として本研究を行った。特に、生命に影響を及ぼす可能性が高く、有害事象が発生しやすい「呼吸器関連の特定行為」に分析対象を絞り、再発防止に向けたANの役割を考察した。なお、本制度が始まってまだ日が浅く、ANに起因する有害事象の報告は見当たらないため、ここでは、医師に関連した報告をANが今後行う可能性の高い場面と想定し、その傾向を調査した。

<方法>38行為21区分に分類された特定行為のうち、呼吸器関連の「区分1 気道確保」「区分2人工呼吸療法」「区分3長期呼吸療法」を対象とした。これらの有害事象について、(1)医療裁判例、(2)日本医療機能評価機構および(3)日本医療安全調査機構の報告書から情報を収集し、(a)絶対的医行為、(b)特定行為、(c)看護ケアの3つの医行為に分類した。そのうえで、医行為別にみた患者の死亡率を比較した(比率の差の検定)。さらに、(b)の有害事象については、患者の転帰と有害事象に至った要因を明らかにし、その再発防止策について検討した。また、裁判事例の分析に当たっては、被告(人)の職種とその有罪(責)率を算出した。なお、研究に先立ち倫理委員会の承認を得た。

<結果>有害事象数は区分1で32件(裁判例17、報告書15)、区分2で80件(裁判例27、報告書53)、区分3で47件(裁判例7、報告書40)の計159件であった。(b)に相当する有害事象は区分1でチューブ位置調整による右片肺挿管など3件、区分2では鎮静薬関連および人工呼吸器設定モード不備が4件、区分3では気管切開チューブ挿入・交換時のトラブルが9件の計16件あり、死亡率は62.5%であった。なかでも、区分3は9件中7件(78%)が死亡もしくは高度障害残存という重篤な状態に至っており、その内4件(57%)は気管切開術から一週間以内の発生であった。また、全有害事象における死亡率をそれぞれの医行為別に比較すると、区分1では(b)66.7%、(c)17.6%、区分2では(b)50%、(c)52.2%、区分3では(b)66.7%、(c)25.7%であり、区分1と3で(c)よりも(b)の方が高く、区分3では有意差(p=0.042)を認めた。さらに、裁判事例の分析では、呼吸器関連の刑事裁判23件のうち、看護師が被告人となった事例は15件(65%)と全職種の中で最多であり、全例が有罪判決を受けていた。

<考察>特定行為に相当する有害事象における患者の死亡率や、刑事裁判における看護師の有罪率からANが法的責任を問われるリスクは高いと考えられる。本研究で抽出した有害事象は、医師が実施したことにより発生したものであるが、特定行為として看護師が実施する場合は、より一層のリスク管理を行い、有害事象の発生予防に努めなければならない。なかでも、気管切開チューブ交換時のトラブルは致死率が高いため、初回交換は2週間以降で気管切開孔の瘻孔化を待ってからとし,それ以前に交換を必要とする場合は,集中治療室や手術室等で熟練した医師の立ち会いのもとで行う事が望ましい。また,常に挿入困難例を想定して医師との連携を図り,かつ「Difficult Airway Managementカート」を60秒以内に利用可能な状態に準備しておく等の危機管理も重要である。