第6回日本在宅医療連合学会大会

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特別企画

01-1:ACP・意思決定

<特別企画2 患者が“命を終えたい”と言ったとき> 第二部

Sun. Jul 21, 2024 8:55 AM - 10:40 AM 第1会場 (コンベンションホールB)

座長:加部 一彦(埼玉医科大学総合医療センター)、長尾 式子(北里大学看護学部/北里大学大学院看護学研究科)

9:25 AM - 9:55 AM

[SP2-2-2] ”命を終えたい”患者への対応と法的問題

*武市 尚子1 (1. 札幌フロンティア法律事務所/千葉大学客員准教授)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了
千葉大学法医学教室特任助教
首都大学東京法科大学院修了、弁護士登録
東京女子医科大学医療安全・危機管理部、法務部次長
厚生労働省医政局医事課 医事・死因究明等対策専門官
患者が“命を終えたい”と言ったとき、このような患者の訴えや苦痛・苦悩に対し、医療・保健専門職が向き合うことになる“法的な問題”について考察するのが、本企画において、法律家として演者に与えられた役割である。
 まず、患者の“命を終えたい”という意味が、終末期医療の局面で延命のための積極的治療を中止し、緩和ケアを優先することであった場合には、その患者の意思表示が患者自身によって明示的に行われ、その真意を疑うべき事情もないような場合、当該患者の意向に沿った治療方針をとることは法律上許容されるというのが、関連する裁判例から導かれる通説であると解される。
 しかし、患者を支える医療・保健専門職に、より深刻な葛藤をもたらすのは、これまでの裁判例で示されたような①耐え難い肉体的苦痛、②死が不可避で死期が迫っている、③肉体的苦痛の除去・緩和のため方法を尽くしたが他に代替手段がないといった状況下にはない、あるいは終末期医療という局面ではないが、“命を終えたい”という患者の明確な意思表示はあるという場合であろう。
 40代のALS患者が、複数の訪問医師や訪問看護師に対し、少なくとも数か月にわたり“人工呼吸器を外してほしい”、“死にたい”などと訴え、医師から“警察に捕まることを覚悟でないとできないからそれはしてあげられない”と断られ、家族Xからも同様に諭されていたという事実関係の下、ついにXが患者の懇願を受け入れて人工呼吸器を停止させたという事案において、Xには嘱託殺人罪(刑法202条)が成立し、懲役3年執行猶予5年が言い渡された(横浜地裁平成17年2月14日判決、医事法判例百選第3版196~197頁)。
 上記は医療・保健専門職ではなく、家族が患者の意向に応じたケースであるが、安楽死や尊厳死に関する法が存在しない我が国における現実を端的にあらわしているように思う。