受賞者講演 (篠崎彩子会員) (11:40 〜 12:00)
セッション情報
受賞者講演
2018年度日本鉱物科学会研究奨励賞第26回受賞者 篠崎彩子 会員(北海道大学)
研究対象:「地球深部・氷天体深部での炭素、水素、窒素関連物質の振る舞いの解明」
2019年9月21日(土) 11:40 〜 12:00 大講義室 II (大講義室)
受賞理由:
篠崎彩子会員は,鉱物物理化学を基軸として,有機地球化学と物理化学に広がる学際的なアプローチから,地球深部・氷天体深部での炭素,水素,窒素などの軽元素関連物質の振る舞いの解明に向けて重要な研究成果を挙げてきた.
同会員は地球深部における代表的な還元的流体の候補である水素,メタンに着目し,これらの流体がマントル主要構成鉱物である珪酸塩鉱物の結晶構造や相関係に与える影響を,レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いた高温高圧実験および放射光X線回折,ラマン・赤外吸収スペクトル測定,回収試料の電子顕微鏡観察などの複数の手法を駆使して明らかにしてきた.例えば,上部マントルに相当する温度圧力下で,カンラン石や輝石のSiO2成分と水素流体が反応しSiH4, H2Oが生成する,つまり珪酸塩鉱物中のSiO2成分が選択的に水素流体中に溶けることを明らかにした.類似の現象が窒素流体とかんらん石との高温高圧下での反応においても見いだされている.これらの結果は,還元的な深部マントルでは,流体と鉱物間の元素分配が従来考えられてきたよりもはるかに複雑であることを示唆する重要な成果である.
また,地球,氷天体深部環境や隕石中で水素や炭素などのリザーバーとなりえる有機物について,その有機物の室温高圧,高温高圧下での安定性や化学反応を高圧実験や有機質量分析などを駆使して明らかにしてきた.例えば,ベンゼンやナフタレンなどの芳香族化合物が13-15GPa以上で圧力誘起重合反応を起こし,様々な構造を持つ二量体,三量体が生成することを明らかにした.同会員が明らかにした氷天体内部を模擬した室温静水圧下での化学反応は,大規模な脱水素反応を伴わない.この結果は,これまで惑星表面での衝突現象を模擬するために行われてきた衝撃実験の結果とは大きく異なる.これら以外にも,篠崎会員はアミノ酸が高圧下で脱水縮合してペプチド化することや,中性子回折実験を利用することで高圧下でのアミノ酸の水素結合相互作用などを明らかにしてきた.
以上のように,篠崎会員は地球,氷天体内部に存在しうる軽元素とその振る舞いについて,先端的な実験,分析手法を用いた独創的な研究を進め,重要な成果を得てきた.また,その成果の中には新しい研究分野の開拓へつながる可能性のある興味深い成果も含まれており,今後の鉱物科学分野において一層の活躍が期待される.よって,篠崎彩子会員を日本鉱物科学会研究奨励賞受賞者として相応しいと考え,ここに推薦する.
主要論文
1. A. Shinozaki, H. Hirai, H. Ohfuji, T. Okada, S. Machida, T. Yagi, Influence of H2 fluid on the stability and dissolution of Mg2SiO4 forsterite under high pressure and high temperature, American Mineralogist, 98, 1604-1609 (2013)
2. A. Shinozaki, K. Mimura, H. Kagi, K. Komatsu, N. Noguchi, H. Gotou, Pressure-induced oligomerization of benzene at room temperature as a precursory reaction of amorphization. The Journal of Chemical Physics, 141, 084306 1-7 (2014)
3.A. Shinozaki, H. Kagi, H. Hirai, H. Ohfuji, T. Okada, S. Nakano, T. Yagi, Preferential dissolution of SiO2 from enstatite to H2 fluid under high pressure and temperature, Physics and Chemistry of Minerals, 43, 277-285 (2016)