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[R3-03] スティショバイトにおける水素とアルミニウムの存在状態:多核種NMR及び第一原理計算による新知見
キーワード:水、スティショバイト、核磁気共鳴法、第一原理計算、アルミニウム
Alを含むスティショバイトは沈み込み帯の海洋玄武岩物質において、水の重要なキャリアとして注目され、一部の観測された地震波速度異常に寄与することが推定されている。HとAlの溶存がスティショバイトの物性にどのような影響を及ぼすかを知る上では、これらの元素の溶存状態を明らかにする必要がある。これまでの研究からはほとんど、H/Al比が1を大きく下回ることが報告され、Al+HによるSiのカープリング置換のほか、酸素欠陥を伴う余分なAlの存在が推定された。しかし、このような置換機構を裏付ける直接な根拠が乏しかった。 本研究では、Xue et al. 2006 Am Mineral 91, 850-861で報告された、0.95SiO2.0.05AlOOH組成の出発物質から、18 GPa、 1800˚Cで合成した含水スティショバイト試料を用いて、詳細な1H MASとstatic NMR, 27Al MAS と 3QMAS NMR, 1H-29Si と 1H-27Si CPMAS NMR測定を行った。NMR測定は、Bruker Avance NEO 400 NMR装置及び3.2 mm HX MAS NNRプローブを用いた。また、スペクトル解釈を支援するため、第一原理計算により、さまざまなAl+HによるSiのカップリング置換、及び2Al+酸素欠陥による2Siの置換を含むスティショバイト構造モデルのエネルギーとNMRパラメータの計算を行った。計算は、Quantum-ESPRESSO package (v.7.0)を用いて、GIPAW 法で行った。NMR測定からは、サンプルは約0.3 wt%の水を含むスティショバイトとAl2O3コランダム相が共存することが分かった。含水スティショバイト相からは、9.4 ppm 付近の1H MAS NMR ピーク, 6配位Siに由来する-191 ppm付近の (高い化学シフト側の弱い肩をもつ) 1H-29Si CPMAS NMR ピーク、及び6配位Alに由来する1.9 ppm 付近の1H-27Al CPMAS NMR ピーク が観測された。これらの 1H, 27Al, 29Si NMR スペクトルの特徴は、いずれも第一原理計算によるAl+HによるSiのカップリング置換モデルの結果と調和する。2Al+酸素欠陥による2Siの置換により生じると予想される、5配位Al(計算値:27Al化学シフト:42~46 ppm, CQ: 6.0~9.4 MHz)、5配位Si(29Si化学シフト計算値:-125~-130 ppm)、または4配位Si、Alは、いずれも観測されていない。従って、本研究から、従来で推定された スティショバイトにおけるH と Al の溶解機構 の一般化の再考の必要性が示唆された。ラマンやEPMA測定も計画中であり、最新結果は学会当日に発表する。