12:00 〜 14:00
[R3P-04] 準安定オリビンのレオロジー
「発表賞エントリー」
キーワード:準安定オリビン、パイエルス機構、深部スラブレオロジー、高圧変形実験、放射光その場観察
地球内部に沈み込んだスラブの中心部は温度が低く、マントル遷移層(深さ410-670 km)ではスラブの主要構成鉱物のオリビンが相転移せずに残存し、準安定オリビンウェッジ(metastable olivine wedge)を形成していると考えられている。そのレオロジーはプレートテクトニクスを駆動するマントル対流や深発地震をはじめとする深部スラブのダイナミクスを考えるうえで非常に重要である。これまで比較的低圧の実験(4-9 GPa, e.g. Kawazoe et al., 2009; Mei et al., 2010)により、低温で卓越するパイエルス機構による塑性流動(low temperature plasticity)による変形強度が調べられてきたが、その圧力依存性はよく決まっておらず(V*=0-30 cm3/mol)、マントル遷移層圧力での直接的な実験が必要であった。そこで、本研究では準安定領域を含む11-20GPa、570-1120℃のより広い温度圧力領域でマントルオリビンの変形実験を行ない、オリビンのパイエルス機構の圧力依存性を直接的に測定した。
変形-相転移実験はKEK PF-AR NE7AおよびSPring-8 BL04B1設置のD111型高圧変形装置を用いて、11-20GPa、570-1120℃、歪速度2.8-8.5x10-5 /sの一軸圧縮変形場で行なった。60keV単色X線を用いて2次元X線回折パターンと試料部イメージングの時分割測定(1-5分毎)を行ない、応力‐歪曲線を取得し、相転移の開始もモニタした。また、オリビン準安定領域の高温側では、相転移に伴う断層形成(せん断不安定化)が起こる可能性が予想される。そこで、一部の実験では独自の8素子アコースティックエミッション(AE)測定システムも組み合わせ、変形中のせん断不安定化挙動もその場観察した。回収試料はFE-SEM、FE-TEM等で微細組織観察を行なっている。
本実験の全温度圧力領域において、オリビンの強度は転位クリープ(Kawazoe et al., 2009)や粒径依存クリープ(Ohuchi et al., 2015)で推定される強度よりも小さく、またその温度依存性も小さい。これらのことから本実験領域のオリビンの流動機構はパイエルス機構であることが示唆された。本実験の~11-20GPaにおいてオリビン強度の圧力依存性はかなり大きい。またいずれの実験でも加工硬化する傾向がみられた。
本実験領域の高温側、~15-16GPaでは870℃以上、~20GPaでは760℃以上においては、それぞれウォズレアイト、リングウッダイトへのごく少量の相転移が始まっている。特に20GPaでは相転移の開始温度付近でのみAEを伴う応力降下(~1.5GPa)と断層形成が確認され、相転移誘起のせん断不安定化が起こった。
相転移がみられなかった570-580℃でのオリビンの強度は、圧力~11-20GPaの範囲で4.5-6.8GPaと上昇する。これらのデータと過去に常圧で得られているEvans and Goetze(1979)のパラメータを基にパイエルス機構の流動則を求めると、活性化体積はV*=35.3(9) cm3/molとなった。この流動則はKawazoe et al.(2009)やMei et al.(2010)において圧力~5-9GPa付近で得られているオリビン強度をおおよそ説明できる。この流動則をスラブスケール(20GPa、 500-600℃、10-14/s)に外挿すると、ドライな準安定オリビンウェッジでは、パイエルス機構による変形が卓越し、その強度は比較的大きく~5GPa程度であると見積もられた。
一方、より高温側でごく少量の相転移が起こり始めている実験では、せん断不安定化の出現に加え、オリビンの流動強度もやや小さく、相転移による軟化が示唆された。準安定オリビンウェッジの外側部分のレオロジーは、細粒スピネル相によるせん断不安定化や超塑性軟化の影響を考慮する必要がある。これらの結果は、冷たい遷移層スラブの強度プロファイルを直接的に理解し、下部マントルに沈み込む冷たいスラブコアへの応力集中を検討する上で重要である。
変形-相転移実験はKEK PF-AR NE7AおよびSPring-8 BL04B1設置のD111型高圧変形装置を用いて、11-20GPa、570-1120℃、歪速度2.8-8.5x10-5 /sの一軸圧縮変形場で行なった。60keV単色X線を用いて2次元X線回折パターンと試料部イメージングの時分割測定(1-5分毎)を行ない、応力‐歪曲線を取得し、相転移の開始もモニタした。また、オリビン準安定領域の高温側では、相転移に伴う断層形成(せん断不安定化)が起こる可能性が予想される。そこで、一部の実験では独自の8素子アコースティックエミッション(AE)測定システムも組み合わせ、変形中のせん断不安定化挙動もその場観察した。回収試料はFE-SEM、FE-TEM等で微細組織観察を行なっている。
本実験の全温度圧力領域において、オリビンの強度は転位クリープ(Kawazoe et al., 2009)や粒径依存クリープ(Ohuchi et al., 2015)で推定される強度よりも小さく、またその温度依存性も小さい。これらのことから本実験領域のオリビンの流動機構はパイエルス機構であることが示唆された。本実験の~11-20GPaにおいてオリビン強度の圧力依存性はかなり大きい。またいずれの実験でも加工硬化する傾向がみられた。
本実験領域の高温側、~15-16GPaでは870℃以上、~20GPaでは760℃以上においては、それぞれウォズレアイト、リングウッダイトへのごく少量の相転移が始まっている。特に20GPaでは相転移の開始温度付近でのみAEを伴う応力降下(~1.5GPa)と断層形成が確認され、相転移誘起のせん断不安定化が起こった。
相転移がみられなかった570-580℃でのオリビンの強度は、圧力~11-20GPaの範囲で4.5-6.8GPaと上昇する。これらのデータと過去に常圧で得られているEvans and Goetze(1979)のパラメータを基にパイエルス機構の流動則を求めると、活性化体積はV*=35.3(9) cm3/molとなった。この流動則はKawazoe et al.(2009)やMei et al.(2010)において圧力~5-9GPa付近で得られているオリビン強度をおおよそ説明できる。この流動則をスラブスケール(20GPa、 500-600℃、10-14/s)に外挿すると、ドライな準安定オリビンウェッジでは、パイエルス機構による変形が卓越し、その強度は比較的大きく~5GPa程度であると見積もられた。
一方、より高温側でごく少量の相転移が起こり始めている実験では、せん断不安定化の出現に加え、オリビンの流動強度もやや小さく、相転移による軟化が示唆された。準安定オリビンウェッジの外側部分のレオロジーは、細粒スピネル相によるせん断不安定化や超塑性軟化の影響を考慮する必要がある。これらの結果は、冷たい遷移層スラブの強度プロファイルを直接的に理解し、下部マントルに沈み込む冷たいスラブコアへの応力集中を検討する上で重要である。