一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

R7:岩石・鉱物・鉱床 (資源地質学会 との共催 セッション)

2023年9月14日(木) 14:45 〜 16:30 822 (杉本キャンパス)

座長:秋澤 紀克(東京大学大気海洋研究所)、越後 拓也(秋田大学)

15:45 〜 16:00

[R7-05] ハワイ・ソルトレイククレーター産ザクロ石カンラン岩の再解析

*秋澤 紀克1、石川 晃2、藤田 遼2、森下 知晃3、田村 明弘3、佐野 貴司4 (1. 東京大・大海研、2. 東工大・理、3. 金沢大・理工、4. 国立科学博物館)

キーワード:マントル、海洋リソスフェア、ザクロ石、カンラン岩

1.はじめに
海洋域で採取されるカンラン岩は海洋リソスフェア構成物質のアナログであり、その熱化学状態を明らかにすることができる有用な研究対象となる。特に、ザクロ石カンラン岩はスピネルカンラン岩よりも高圧(約60 km以深)由来であるため、深部海洋リソスフェアの物質的情報を引き出すのに重要となる。また、ザクロ石カンラン岩は正確に圧力推定ができるため、海洋リソスフェアの熱化学状態を明らかにする上で必須のマントル物質と言える。しかし、ザクロ石カンラン岩の出現頻度はスピネルカンラン岩に比べて圧倒的に少なく、海洋域ではほとんど報告されてこなかった。その少ない報告例のうちの1つが、Goto and Yokoyama (1988, Lithos, vol.21, 67–80)が記載した、ハワイのソルトレイククレーターにおいてネフェリナイト凝灰岩に含まれるザクロ石レールゾライトである。本研究では、Goto and Yokoyama (1988)が扱ったサンプルの中で、唯一ザクロ石を含むカンラン岩と記載されたサンプルの再解析を実施し、その鉱物組成や全岩科学組成を明らかにした上で岩石学的実態を明らかにする。
2.地質概説と岩石記載
ハワイのオアフ島は約90 Maの海洋リソスフェアに位置しており、その東側に位置するソルトレイククレーターからは、捕獲岩が報告されている。Goto and Yokoyama (1988)は80個の捕獲岩を報告し、その中から1つのザクロ石レールゾライトを見出した。このザクロ石レールゾライトはSL014と名付けられており、粗粒等粒状で最も大きい直方輝石は直径~8 mmであった。直方輝石と単斜輝石はそれぞれ単斜輝石と直方輝石のラメラを含んでおり、単斜輝石は直方輝石に比べて細粒であった(直径~数mm)。また、多形で細粒の(直径~1 mm)スピネルを含んでいた。Goto and Yokoyama (1988)は、SL014から直径~1 mmのザクロ石を報告しているが、我々が作成した薄片からは見つからなかった。その新たな薄片の鉱物モード組成はカンラン石60.7 vol.%、直方輝石20.4 vol.%、単斜輝石17.7 vol.%、スピネル1.2 vol.%と見積もられた。
3.鉱物化学組成
カンラン石、直方輝石、単斜輝石のMg#(Mg/(Mg+Fe2)原子比)は約0.89、スピネルのCr#(Cr/(Cr+Al)原子比)は0.1であり、一般的なレールゾライトと同様な鉱物化学組成を示した。Goto and Yokoyama (1988)が報告したSL014の全岩化学組成はAl2O3やCaOに富んでおり(それぞれ、3.7 wt%, 3.4 wt%)、他のサンプルに比べて肥沃な組成であった。
4.議論
本研究で新たに作成したSL014の薄片からは、ザクロ石を見つけることができなかった。これは、サンプルの取り違えでザクロ石がないか、ザクロ石が局所的であるためと考えられる。Goto and Yokoyama (1988)が報告している鉱物化学組成と新たに分析し直した鉱物化学組成に違いは見られなかったため、前者の可能性は低いと推察する。一方で後者の可能性は、ザクロ石輝岩とカンラン岩の複合捕獲岩がソルトレイククレーターから多数報告されていることも考慮すると、最もらしいと考えられる。本研究の議論のためにはザクロ石が平衡にカンラン岩と存在するかどうかが鍵となるため、鉱物微量元素組成の測定や、全岩化学組成を用いたザクロ石/スピネルと他のカンラン岩構成鉱物との平衡関係を考察した上で議論を展開する。