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[R8-01] 四国中央部三波川帯の泥質片岩に産するフェンジャイトの微量元素・ストロンチウム同位体地球化学
「発表賞エントリー」
キーワード:フェンジャイト、三波川帯、微量元素、ストロンチウム同位体比、上昇したスラブ
フェンジャイト質白色雲母(フェンジャイト)は、高圧・超高圧変成岩において幅広い温度圧力条件かつ変成堆積岩から変成玄武岩までの様々な岩相に普遍的に産する主要な含水変成鉱物である。フェンジャイトには、Li、B、N、Rb、Cs、Baなどの流体活動に敏感な元素が高濃度で分配される。そのため、変成脱水反応、流体–岩石相互作用、後退変成作用など、流体が関与する物質移動の定量化に適しており、K–Ar系の年代測定や地質圧力計だけでなく、強力な地球化学的トレーサーになりうる鉱物である。
オロジェンに露出した高圧変成地帯から過去の沈み込みスラブ流体の特徴を明らかにするために、我々は四国中央部三波川帯(汗見川–銅山川ルート)で採取され、Itaya and Takasugi (1988) によってK–Ar年代測定が行われたフェンジャイト計84試料について包括的な地球化学の解析を行なってきた。本講演では現在までに得られているSr同位体比及び微量元素組成について報告する。泥質片岩13試料のSr同位体比 (87Sr/86Sr) は0.70955–0.71836(年代補正なし)の幅をもつ。緑泥石帯からアルバイト–黒雲母帯までの泥質片岩22試料のフェンジャイト局所微量元素組成分析の結果、変成度及びSr同位体比との間に明瞭な相関はみられず、見かけのK–Ar年代 (Itaya and Takasugi, 1988)、酸素・水素同位体組成とも明瞭な相関を示さない。
北米カタリナ島の変成堆積岩に含まれるフェンジャイトではRb/Cs比が変成度の上昇に伴って高くなる傾向が示されており (Bebout et al., 2007)、これは水流体–フェンジャイト間においてRbに比較してCsが流体に分配されやすく (Melzer and Wunder, 2000)、脱水反応の進行とともにCsが流体へ選択的に分配されるためと考えられている。しかし、三波川帯の泥質片岩のフェンジャイトでは変成度上昇に伴ったRb/Cs比の上昇はみられない。また、測定したフェンジャイトのRb/Cs比は10–60 (5点を除くと10–30) で、これは沈み込む堆積物 (Plank, 2014) や四万十帯の堆積岩 (Hasegawa et al., 2019; Honda et al., 2011; Ishikawa and Ujiie, 2019) と同程度である。フェンジャイトのRb/Cs比は全岩のRb/Cs比を反映することが知られており (Bebout et al., 2007)、三波川帯の泥質片岩が少なくとも一部の微量元素組成については原岩の特徴を保持している可能性、あるいは後退変成作用の際に堆積物由来の流体と相互作用を起こし微量元素組成について均質になるようなプロセスを経た可能性を示唆する。
引用文献
Bebout et al., 2007. Chem. Geol. 239, 284–304. https://doi.org/10.1016/j.chemgeo.2006.10.016
Hasegawa et al., 2019. Prog. Earth Planet. Sci. 6, 36. https://doi.org/10.1186/s40645-019-0281-2
Honda et al., 2011. Geophys. Res. Lett. 38, L06310. https://doi.org/10.1029/2011GL046722
Ishikawa & Ujiie, 2019. Geology 47, 343–346. https://doi.org/10.1130/G45889.1
Itaya and Takasugi, 1988. Contrib. Mineral. Petrol., 100, 281–290. https://doi.org/10.1007/BF00379739
Melzer & Wunder, 2000. Geology 28, 583–586. https://doi.org/10.1130/0091-7613(2000)28<583:IBARCF>2.0.CO;2
Plank, 2014. Treatise on Geochemistry 2nd Edition, 4.17, 607–29. Elsevier. http://dx.doi.org/10.1016/B978-0-08-095975-7.00319-3
オロジェンに露出した高圧変成地帯から過去の沈み込みスラブ流体の特徴を明らかにするために、我々は四国中央部三波川帯(汗見川–銅山川ルート)で採取され、Itaya and Takasugi (1988) によってK–Ar年代測定が行われたフェンジャイト計84試料について包括的な地球化学の解析を行なってきた。本講演では現在までに得られているSr同位体比及び微量元素組成について報告する。泥質片岩13試料のSr同位体比 (87Sr/86Sr) は0.70955–0.71836(年代補正なし)の幅をもつ。緑泥石帯からアルバイト–黒雲母帯までの泥質片岩22試料のフェンジャイト局所微量元素組成分析の結果、変成度及びSr同位体比との間に明瞭な相関はみられず、見かけのK–Ar年代 (Itaya and Takasugi, 1988)、酸素・水素同位体組成とも明瞭な相関を示さない。
北米カタリナ島の変成堆積岩に含まれるフェンジャイトではRb/Cs比が変成度の上昇に伴って高くなる傾向が示されており (Bebout et al., 2007)、これは水流体–フェンジャイト間においてRbに比較してCsが流体に分配されやすく (Melzer and Wunder, 2000)、脱水反応の進行とともにCsが流体へ選択的に分配されるためと考えられている。しかし、三波川帯の泥質片岩のフェンジャイトでは変成度上昇に伴ったRb/Cs比の上昇はみられない。また、測定したフェンジャイトのRb/Cs比は10–60 (5点を除くと10–30) で、これは沈み込む堆積物 (Plank, 2014) や四万十帯の堆積岩 (Hasegawa et al., 2019; Honda et al., 2011; Ishikawa and Ujiie, 2019) と同程度である。フェンジャイトのRb/Cs比は全岩のRb/Cs比を反映することが知られており (Bebout et al., 2007)、三波川帯の泥質片岩が少なくとも一部の微量元素組成については原岩の特徴を保持している可能性、あるいは後退変成作用の際に堆積物由来の流体と相互作用を起こし微量元素組成について均質になるようなプロセスを経た可能性を示唆する。
引用文献
Bebout et al., 2007. Chem. Geol. 239, 284–304. https://doi.org/10.1016/j.chemgeo.2006.10.016
Hasegawa et al., 2019. Prog. Earth Planet. Sci. 6, 36. https://doi.org/10.1186/s40645-019-0281-2
Honda et al., 2011. Geophys. Res. Lett. 38, L06310. https://doi.org/10.1029/2011GL046722
Ishikawa & Ujiie, 2019. Geology 47, 343–346. https://doi.org/10.1130/G45889.1
Itaya and Takasugi, 1988. Contrib. Mineral. Petrol., 100, 281–290. https://doi.org/10.1007/BF00379739
Melzer & Wunder, 2000. Geology 28, 583–586. https://doi.org/10.1130/0091-7613(2000)28<583:IBARCF>2.0.CO;2
Plank, 2014. Treatise on Geochemistry 2nd Edition, 4.17, 607–29. Elsevier. http://dx.doi.org/10.1016/B978-0-08-095975-7.00319-3