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[R8-06] 石英ラマン圧力計のデータの取り扱い
キーワード:石英ラマン圧力計、残留圧力、石英、ざくろ石
石英ラマン圧力計とは,ざくろ石などのホスト鉱物中に含まれる微小な石英包有物をラマン分光分析し,そのピークシフトから残留圧力を計測することで,ホスト鉱物中に石英が取り込まれた変成条件を制約する手法である.石英ラマン圧力計は,何点かのデータを取得した上で,最高残留圧力値を保持する石英をピーク条件で取り込まれたと解釈し,変成条件の制約に用いられてきた.しかし,実際には石英包有物の残留圧力は幅広い値を取り,最高値以外にも様々な情報を含んでいる可能性がある.そこで,本研究ではこれまで著者が取得してきた残留圧力データを基にして,測定データの取り扱い方法について検証を行った. Franciscan帯のJenner Beachで採取されたエクロジャイトに含まれるざくろ石中の石英包有物は,0.15–0.70 GPaの残留圧力値を示し,ヒストグラムを作成すると,0.51 GPaを平均値とする正規分布を示した.一方で,石英が含まれている領域をざくろ石のcore, mantle, rimに分けると,残留圧力値の平均値は,0.43 GPa, 0.54 GPa, 0.58 GPaとcoreからrimに向かって上昇することが明らかになった.この結果は,すべてのデータを統合して平均値や最高値で議論するだけでなく,ざくろ石の累帯構造と対応づけることで,progradeの成長経路が明らかになる可能性を示唆している.一方,三波川帯の権現地域で採取された石英エクロジャイトは,ヒストグラムを作成すると複数のピークを示すため,様々なタイミングでの変成条件が複合的に反映されているのではないかと考えられる.最も高い0.7 GPaのピークは石英エクロジャイトのピーク変成条件に相当すると考えられる.一方で,低圧側の0.4-0.6 GPaの範囲の残留圧力のピークは,累進変成作用時にざくろ石が成長したタイミング,もしくはエクロジャイト相変成作用後の緑簾石-角閃岩相での再加熱時の変成条件を反映している可能性が示唆される.これらのデータから,ざくろ石中の石英の残留圧力は様々な変成条件を反映しているため,石英ラマン圧力計を用いる際は,岩石の変成履歴を考慮した上でどの値を変成条件の制約に用いるか慎重に検討する必要があると言える.