一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

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R8:変成岩とテクトニクス

2023年9月16日(土) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[R8P-11] EMアルゴリズムを利用した岩石中炭質物の新しい被熱温度推定法自動化の試み

*中村 佳博1、松村 太郎次郎1、宮崎 一博1 (1. 産総研)

キーワード:炭質物、顕微ラマン分光法、EM アルゴリズム

岩石中炭質物の結晶度を利用した被熱温度推定法は,顕微ラマン分光装置を利用することで簡便かつ迅速に解析可能であるため様々な変成帯で広く利用されている.しかしこの手法には,1) 薄片作成時の非晶質化, 2) 適切な炭質物粒子の選定に人的バイアスの発生, 3)大量取得した炭質物ラマンデータ解析に多大な労力が必要である点に大きな問題を抱えている.そこで我々は,研磨薄片を利用せず岩石片をオートフォーカスで表面分析し,得られた大量のマップデータから温度推定に適用可能な指標を抽出する新しい手法の開発を目指し,装置開発及びラマンデータ解析法の検討を行った.本研究では,地球科学分野の研究室で最も利用の多い532nm(緑色)レーザーを利用して顕微ラマン分光分析及びスペクトル解析を実施した.可視光レーザーの場合,周囲の鉱物を同時に分析することで強い蛍光が発生する場合がある.この問題は,高倍率の長作動対物レンズを利用し共焦点性を高めることで影響を低減させることに成功した.しかし完全に蛍光バックグラウンドを削除することは不可能であり,カーブフィットの手法に工夫を加えた.本研究では,分光スペクトルのカーブフィットに信頼性のあるEMアルゴリズムを利用したカーブフィット法(Muramatsu et al. 2019)を炭質物のラマンスペクトルに適用した. Nakamura et al. (2019)のサンプルデータと岩石片のマッピングデータを利用し,ピーク分解・パラメータ抽出・ソートを自動化することで30570通り(1019データ×3パターン×10回)の自動解析を実施した.その結果,従来の温度指標であるD1 bandの半値幅や面積比は,蛍光バックグラウンドの影響を強く受けるため自動分析で得られたラマンスペクトルにそのまま適用することは困難であった.一方で炭質物のラマンシフトはEMアルゴリズムによるカーブフィットで高い精度で決定することができた.そのためG bandとD1 bandの距離を取ったRBS(Raman band separation)を温度指標として採用することで,蛍光バックグラウンドが重複するラマンスペクトルからでも被熱温度推定が可能となった.現在200℃から320℃付近の四万十付加体中泥質岩試料で検討を行っており,より高温側(350~650℃)の変成岩試料の解析結果も合わせて分析自動化の成果を発表する. <引用> Matsumura et al. (2019), STAM, 20:1, 733-745 Nakamura et al. (2019) Island Arc, 2019;e12318