第36回日本看護科学学会学術集会

会長挨拶

 
第36回日本看護科学学会学術集会開催にあたって
メインテーマ:「国民の幸せをもたらす制度設計と看護研究
 
第36回日本看護科学学会学術集会 
会長: 岡 谷 恵 子

会長: 岡谷恵子(東京医科大学医学部看護学科 学科長)

 第36 回日本看護科学学会学術集会を会員の皆様のご支援のもと、4 年ぶりに東京で開催できますことを心より感謝申し上げます。また、開催準備にあたりまして、日本看護科学学会理事会をはじめ、多くの関係者の皆様から温かいご支援と心強いご協力をいただきましたことを心よりお礼申し上げます。
 2025 年には人口の3 人に1 人が65 歳以上、5 人に1 人が75 歳以上となる高齢社会が到来します。高齢者人口の増大は、保健医療福祉制度に留まらず、日本のしくみのあらゆる局面に多大な影響を与えます。これらを2025 年問題と称して、様々な分野が持続可能な社会の実現を目指して対策を講じようとしています。さらに、長期にわたる経済の停滞によって経済格差による貧困が課題となっています。貧困は、自殺、育児放棄、心身の健康障害などを引き起こし、教育の機会を奪い、孤独や社会からの逸・脱・阻害、暴力といった負の連鎖を引き起こす重大な社会的課題です。このような人々の暮らしや健康、尊厳や安全を脅かす社会的課題の解決に、看護学はどう取り組んでいけばいいのでしょうか。看護学という一つの学術分野に留まらず、他分野と連携・協働する柔軟性や、学術の世界だけでなく自治体や企業、住民と協同して課題解決に取り組むための新たな研究体制や研究方法が求められます。
 このような問題意識の下、特別講演I では地球環境研究の国際プログラムに参加してこられた春日文子氏に「Future・Earth の活動を通して見る科学と社会のつながり」を、さらに特別講演II では行政学の立場から政策研究に携わってこられた森田朗氏に「ケア・イノベーションと政策研究」をご講演いただきます。教育講演I ではアクションリサーチと制度設計という視点から秋山弘子氏に「長寿社会における看護を開拓するアクションリサーチ」を、教育講演II では外来における看護の評価についての研究に取り組んでこられた数間恵子氏に「外来部門における看護の診療報酬評価と臨床看護研究」をご講演いただきます。また、シンポジウムでは「国民の視点からの制度設計」というテーマで、認知症、貧困、訪問看護という社会的課題を取り上げ、実践例を通して制度設計と研究のあり方について考えていきます。
 ナーシングサイエンスカフェでは、海外の病院に勤務する朝倉由紀氏、企業で働く岡村由紀子氏、自ら起業した細谷恵子氏、国の機関で働く関根小乃枝氏の4 人を講師に迎えて看護職の多様な働き方を紹介します。市民フォーラムでは、超高齢社会の必然でもある「身終い」をテーマに、高齢者の意思決定を支援されている宇都宮宏子氏と遺品整理に携わっておられる小根秀人氏にご講演いただきます。多くの会員の皆様から演題、交流集会の応募をいただきました。一般演題は口演242 題、示説713 題の合計955 題の発表となります。交流集会は52 題となりました。
 人々の暮らしや健康に大きな影響を持つ社会的課題に看護学がどう取り組むのか、社会と科学のつながりという視点から活発な議論ができますことを願っております。