[P2-2-23] Degradation of epidermal growth factor receptor inhibits the repair of lung tissue.
Keywords:肺炎球菌、好中球エラスターゼ、上皮成長因子受容体
【目的】肺炎球菌は,誤嚥性肺炎を含めた肺炎の主たる起因細菌である.宿主に感染した肺炎球菌は,好中球に内在するタンパク質分解酵素のエラスターゼを漏出させる.エラスターゼは宿主タンパク質を分解し,肺組織を傷害する.予備実験において,肺炎球菌感染マウスでは,健常なマウスと比較して,組織修復に機能する上皮成長因子受容体(EGFR)が肺胞洗浄液から多量に検出された.EGFRは膜タンパク質であり,通常は細胞外に遊離しない.そこで,エラスターゼがEGFRを分解し,その結果として肺組織の修復を遅延させるという仮説を立て,解析を行った. 【方法と結果】組換えEGFRとエラスターゼを混合したところ,組換えEGFRの分解が観察された.次にwestern blottingおよび創傷治癒試験により,肺胞上皮細胞株A549細胞に対するエラスターゼの影響を解析した.その結果,エラスターゼ添加群では,非添加群と比較して,①EGFR検出量が有意に少ないこと,②上皮成長因子によるEGFRやその下流シグナルの活性化が抑制されること,③細胞増殖が抑制されることが明らかになった.エラスターゼによるこれらの影響は,エラスターゼとともに同阻害剤を添加することによって少なくなった.また,肺炎球菌感染マウスにおいては,肺組織のKi67(細胞増殖マーカー)陽性細胞が健常なマウスと比較して少なかった.肺炎球菌感染マウスにエラスターゼ阻害剤を投与すると,非投与のマウスと比較して肺胞洗浄液から検出されるEGFR断片量が少なく,Ki67陽性細胞の減少が抑制された. 【考察】以上の結果から,肺炎球菌性肺炎では好中球から漏出するエラスターゼが肺胞上皮細胞のEGFRを分解することで,肺胞上皮の修復が阻害され,肺炎の重症化を引き起こすことが示唆された.また,エラスターゼ阻害剤は肺炎球菌性肺炎の治療薬として効果的である可能性が示された.