6:36 PM - 6:58 PM
[SCJS-04] Regenerative medicine for inflammatory bowel disease
Keywords:炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、オルガノイド
消化管は、食事からの栄養の消化・吸収にとどまらず、免疫や代謝など、多岐にわたる機能を有し、生体の全身恒常性維持において中心的な役割を果たしている。さらに、消化管内に存在する腸内細菌叢は、生体内で最も大きな共生系であり、その異常が全身疾患の重要な要因となることが近年明らかにされている。炎症性腸疾患は、消化管に原因不明の慢性炎症が引き起こされ、消化管組織の構造的・機能的な損傷をもたらす典型的な消化管疾患である。現在、わが国では潰瘍性大腸炎を患う患者が22万人、クローン病を患う患者が7万人以上おり、その数は増加の一途をたどっている。炎症性腸疾患の発症には消化管免疫応答の異常が関与しており、その炎症を制御する治療法の開発が進められてきた。生物学的製剤や分子標的薬など、さまざまな治療薬が登場し、治療体系は大きく変革している。しかし、炎症性腸疾患の長期予後の改善には、傷害した粘膜の再生(粘膜治癒)が重要であるとされ、既存の治療法では粘膜治癒が達成できない症例に対しては、組織再生を促す新たな治療法の開発が課題となっている。 当施設では「粘膜治癒」を達成するための粘膜再生治療として、患者由来の「腸上皮オルガノイド」を利用した自家移植による治療法の開発・実用化に取り組んできた。このため、安全性を確保しながら適切な幹細胞機能を保持した移植用細胞を必要な量まで増幅し、提供するための技術開発を行ってきた。さらに同技術を用いて病院内の細胞調製施設で移植用の「腸上皮オルガノイド」を製造・出荷するための手順の策定や、技術を備えた培養士の養成などを併せて行い、世界に先駆けて消化管内視鏡を用いた「オルガノイド移植」を実施している。本発表では当施設における取り組みを中心に消化管領域の細胞治療・再生医療の現状を紹介し、本領域における再生医療の将来的な展望について、議論する機会としたい。