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[US11-04] Cross-infection of periodontopathogen between humans and wild animals in captivity
Keywords:歯周病、野生動物、共生
ヒトにとどまらず、動物園や水族館の飼育下野生動物においても高齢化が進み、動物の歯周病の増加が問題視されている。しかしながら、歯科診療に精通した獣医師は少なく、多くの飼育施設では、長年の経験を積み重ねた対症療法に頼るしかない状況である。麻布大学いのちの博物館に収蔵されている飼育下野生動物の頭蓋骨を観察してみると、歯槽骨に顕著な骨吸収の痕跡が残っていた。これは歯周病を発症した痕跡で、多くの動物が歯周病を患っていたことが推察された。 イヌやネコも高頻度に歯周病を発症する一方で、自然界に棲息する野生動物には、歯周病はほとんどみとめられないと認識されている。つまり、自然界に棲息する野生動物たちが、動物園や水族館で飼育されるようになり、ヒトと野生動物との“距離”が縮まると歯周病を発症する可能性があることが考えられる。この仮説を検証するために、国内で飼育されているアシカとその飼育員を対象として歯周病原性細菌の検査を行ったところ、すべてのアシカから高病原性のRed complexと低病原性のOrange complexに属するヒト歯周病原性細菌群が検出された。注目される所見として、アシカでの歯周病菌の感染パターンが、飼育員の感染パターンに類似することが判明した。この結果から、アシカと飼育員との間で交差感染、すなわち“人獣共通感染症”が生じている可能性がでてきた。この地球上では、ヒトと動物が長い歴史の中で生態系を構成してきた。私どもは、 “歯周病”をキーワードに、ヒトと動物の共生科学を創生し、両者の健康を支える環境作りを目指している。ヒトが動物に与えている影響、あるいは動物がヒトに与える影響を「口の健康」から探ることで、新たな共生スタイルを見出し、ヒトと動物が培ってきた本来の豊かな生活を目指す一助となればと考えている。