日本文化人類学会第53回研究大会

実施委員長からのお願い

東北大での大会実施にあたってのお願い
第53回研究大会実施委員長
第28期日本文化人類学会会長
清水展
 
2019年6月初に東北大学を会場として開催が予定されている第53回研究大会は、日本文化人類学会が一般社団法人となって初めての記念すべき大会となります。2018年8月に法人としての設立登記ができましたことにつきまして、皆さまのご理解とご支援を賜りましたことに、あらためて深くお礼を申し上げます。また、法人化後初めての研究大会が、今後の学会の活動のさらなる活性化をもたらす契機となることを心から願っております。 
法人化に先立ち、2018年に弘前大学で開催した第52回研究大会において、従来とは異なる運営方法を試行しました。変更点のポイントは、大会開催の事前の準備は学会理事会が担当し、開催校には大会当日の会場確保と受付・会場係、その他の人的サポートをお願いするというものです。この点については、弘前大会の第一回サーキュラーの冒頭で、松田素二・前会長が説明をしております。今回の大会を再び成功裏に進めるために、会員の皆さまのご理解とご協力をぜひとも賜りたいと願っております。
繰り返しになりますが、学会が直面しております危機的な状況につきまして、あらためて変更について少し詳しくご説明をさせてください。
 
実施体制の変更(開催校の準備委員会方式から理事会内の実施委員会方式へ)
 従来の大会は、基本的に開催校を中心に組織された準備委員会がすべての準備、運営を行ってきました。2016年の神戸大会までこの方式で継続して来られましたのは、開催校の会員、院生学生および近隣機関の会員の「尋常ならざる献身」の賜物でした。しかしこの方式は今日大きな曲がり角に立たされています。大学や研究機関をとりまく厳しい状況が、会員に教育上も機関運営上にも大きな負担を強いており、自らの研究時間を工面するのも困難な状況が常態化しつつあります。そのうえ、十名二十名以上の会員がおり、数十名の院生学生を有する大規模校以外では、文化人類学を専門とする会員数が数名あるいは一、二名、大学院生もいないという中規模、小規模校では、本学会のような比較的大規模な学術大会を引き受けたくても、到底引き受けられない状況が続いております。
だからといって、研究大会を大規模校にのみお願いをする、結果として限られた大規模校のみが開催を独占するような事態は、決して望ましいことではありません。そもそも文化人類学の主たる関心が、世界システムのなかでは周辺的な位置づけにある民族やコミュニティーにあり、彼らの文化を学ぶことをとおして、世界の中心(西欧近代)の常識を異化し、それとは違った生活と社会の作り方を構想する導きとしてきました。そうした人類学の初心と初志を思い起こせば、中小規模の大学にも/こそ積極的に大会の開催をお引き受けいただき、学会活動において主要な役割を果たしていただくのが理想的ということもできそうです。
 しかし従来の開催方式では、「研究大会を引き受けてください」と依頼されて快諾できる会員はほぼいないという深刻な問題が、私たちにつきつけられています。実際に、前会長は、弘前大学と東北大学にお引き受けいただくまで、10以上の大学に丁重なお断わりをされた仄聞しております。それぞれ各大学に個別の事情はあるようですが、基本的には本務校での教育と行政その他の負担が、国公立大学では法人化以降、私立大学でも少子化に伴う生き残り競争の激化にともない、急激に増大していることが背景にあります。
 このような状況のなかでは、開催余力のある一部の大規模校に全面的に依存することなく、大会を実施できる体制を検討することが急務となってきた次第です。そのなかでの一つの試行として、弘前大会では、理事会内に会長を委員長とする研究大会実施委員会と、研究大会運営検討委員会や研究大会査読委員会などを設置しました。また実施委員会の実務を担うための事務局を委員長(会長)のもとに設置し、これまで開催校が担当してきた経理、要旨及び参加登録、プログラム作成、ホームページ作成などの事務作業を引き受けました。開催校の弘前大学の事務局では、会場、受付、託児、懇親会などを担当していただきました。そして、実施委員会のもとに二つの事務局が相互に緊密に連携しながら、協働して大会の準備運営にあたった次第です。
 
大会運営への関わり方の変更(お客様から関与者‐ステークホルダーになっていただくお願い)
 以上述べてきましたように、弘前方式は、会員数が少ない大学でも、過重な負担なく研究大会を引き受けられる体制づくりのための実験であり、同時に、大会運営に対する参加者の関わり方の変更についての実験でもありました。これまでの大会では、「お客様」である参加会員に対する開催校による手厚いサービスを基本に運営されてきました。それに対して、2018年度に試行した弘前方式では、大会に関わる会員ひとりひとりの発想の転換をお願いしました。
今回の東北大学での第53回研究大会も、この弘前方式において運営されます。参加会員が研究大会のよりよい運営に力を貸してくださるような、いわば会員(参加者)による会員(参加者)のための大会運営が実現できるようご理解をお願いします。
 
 さらに率直に申し上げれば、一昨年の神戸大学まで開催校でお引き受けいただいておりましたさまざまな事前の準備作業を理事会内の実施委員会が引き受けることは、担当理事に大きな負担を強いることにほかなりません。学会の開催準備をお引き受けいただける大学が限られてきていることの窮余の策として採用した新方式が、負担の所在を開催校から理事会に移すだけに終わるとすれば、次には理事をお引き受けいただける会員が少なくなりかねないことを危惧しております。
 かといって丸投げ外注することは逼迫した予算のなかではできません。弘前大でお引き受けいただいたときは、小規模校なので止むを得ずの試行ということでした。が、それが開催校、学会本部、それに参加した会員の皆さまのご協力によって、大きな破綻もなく成功裏に終了できましたことから、その試行をもう1年続けることになった次第です。学会の活動を安定して継続し、さらに発展してゆくための具体的な策として、どのような方式があるのか、理事会でもさらに検討し知恵をしぼります。とともに、会員の皆さまからも建設的なご提案やご助言をいただけましたら幸いです。
 
 法人化した学会が今後も安定して持続可能な形で、毎年、研究大会を開催できるようにするために、皆さまのご理解とご協力をあらためて心からお願い申し上げる次第です。