The 67th Annual Meeting of the Japanese Association of School Health

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シンポジウム5
次世代につなげる歯科保健教育

コーディネーター:森田一三(日本赤十字豊田看護大学)

キーワード:生活習慣 口腔保健 世代間連鎖戦略
はじめに
 生活習慣が健康に影響することは,これまでに多くの研究が明らかにしてきた.運動をする習慣がないことや,喫煙,睡眠不足,不衛生などの生活習慣は様々な健康障害や疾患の原因となりうる.体の一部である口腔の健康も例外ではなく,歯や歯肉の健康には生活習慣が関係している.これは学校保健の対象となる児童・生徒においてもあてはまり,衛生に関わる生活習慣や食生活は口腔の健康とかかわる.
 本シンポジウムでは,愛知県西尾市の小学校で実施した,口腔の健康にかかわる生活習慣に焦点をあてた,学校保健における歯科保健教育の具体的な取り組みの実例を示したいと思う.

口腔の健康を保つための方法の探索とチェック票の開発
 愛知県で行われた調査研究から始まった8020は,口腔の健康づくり運動として厚生省で採り上げられ,8020運動として全国的な広がりを見せた.しかし,8020を達成するための具体的な手立ては未知であった.そこで,口腔の健康にかかわる生活習慣を分かりやすく人々に示すことを目的としたチェック票を作成した.これにより,8020達成のために気をつけるべきことを,児童・生徒に具体的に示すことが可能となった.しかし,チェック票を用いた具体的な歯科健康教育の実施方法は示されていなかったことから,各々の教諭の工夫に任されていた.すなわち,チェッ
ク票を用いて効果的な歯科健康教育が行われる一方で,チェック票の扱いに迷い,充分な効果が得られない場合が見られた.そのため,誰が行ってもある程度以上の効果が得られる,チェック票を用いた歯科健康教育の実施方法の確立が必要となった.

歯の健康とかかわる生活習慣を学ぶための授業書
 学校歯科保健において口腔の健康のための生活習慣の教育を行うことは,歯みがき指導を行うことに比べ困難と思われる.歯みがき指導は歯磨きを行い,歯の汚れを落とすという明確な目的と,例えば,染め出しを行うことで歯の汚れを明示するという指導方法が確立している.一方,学校歯科保健の視点から生活習慣の教育を行うための,一般化された方法はこれまで示されていなかった.
 そこで,口腔の健康の専門家であっても,そうでなくても専門的な授業を実施できる方法を提案するため,仮説実験授業の仕組みを応用することとし,生活習慣チェック票と連動して歯科保健教育を行うことができる授業書の作成を試みた.第1弾の授業書のテーマは,むし歯になりにくい砂糖の摂取方法および,唾液の大切さについてである.作成した授業書の内容は,むし歯になりにくい砂糖の摂取方法について児童それぞれが仮説を持ち,その理由を示し,議論しながら学ぶ内容となっている.

これからの歯科保健教育
 学校保健の主な対象者である児童・生徒は将来,成人し,保護者となり社会を形成し,生活する環境を作っていく中で,学校保健で得た知識が活かされることは期待できる.このように,学校保健の効果は世代を超えて影響する可能性がある.好ましい世代間の連鎖を進めることを世代間連鎖戦略と呼ぶことができる.すなわち,人々が学んだ健康に資する環境のあり方を,次世代の健康のための環境づくりに応用されるような教育ができるのではないかということである.世代間連鎖戦略は学校歯科保健において,健康にかかわる環境をよりよく変えることのできる力を教育により人々にもたらし,次世代につなげる歯科保健教育を可能とする.このシンポジウムでは,その具体的な提案を示したいと思う.