The 67th Annual Meeting of the Japanese Association of School Health

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一般演題

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原理,歴史,制度(OP-0201~0204)

七木田文彦(埼玉大学)

[OP-0202] 「打ち明けるようなことじゃない」ものの言説分析:強制的学校色覚検査撤廃運動期における「色盲」の社会モデルの萌芽

森谷亮太 (小樽商科大学 グローカル戦略推進センター グローカル教育部門)

日本では,男性の約4.5%と女性の約0.2%が少数派色覚者である.彼らはかつて「色盲」と呼ばれ,色が見えないと誤解されてきた.2003年には強制的学校色覚検査が廃止されたが,近年は検査再開の是非を問う論争が高まっている.このような制度的転換の一方,これまで教育や社会における色盲観の変遷を明らかにしようとする先行研究は限られていた.したがって,本研究は強制的学校色覚検査撤廃運動が拡大した1970年代後半から2002年までに着目し,学校色覚検査や当事者のライフストーリーの言説分析を通して,制度的転換期に色盲観がどのように構築され,変遷したのかを明らかにすることを目的とした.主な資料は,学校保健法や学校身体検査制度,石原式色覚検査表,及び当事者のライフストーリーである.分析では,障害学の視点から,強制的学校色覚検査撤廃運動を境に「色盲」の医学モデルから社会モデルへと色盲観が変遷する過程を詳細に明らかにしようと試みた.障害の社会モデルとは,障害を社会的障壁と捉え,社会の側にその構造的要因を求める視点である.分析の結果,学校色覚検査での不合格判定経験は,当事者の「打ち明けるようなことじゃない」ものという「色盲」観の構築と関係していた.本研究が明らかにした視点として,強制的学校色覚検査撤廃運動期は色覚検査不合格者を欠損や異形成と認識する「色盲」の医学モデルから,彼らの社会的構築性と色認知の多様性を求める「色盲」の社会モデルへと転換する移行期であった.