The 67th Annual Meeting of the Japanese Association of School Health

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市民公開シンポジウム

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幼小児期・若年期からの生活習慣病予防

コーディネーター:八谷寛(名古屋大学大学院医学系研究科国際保健医療学・公衆衛生学),佐藤祐造(名古屋大学名誉教授,前愛知みずほ大学学長)

[OSY-2] 子どもの「生活とからだ」を軸にして学ぶ保健の授業-小学校での生活習慣病の授業から

鎌田克信 (東北福祉大学総合福祉学部福祉心理学科)

Keywords:生活とからだ 発問と対話 科学的な事実

はじめに
 我が国の「主な死因の構成割合」(厚生労働省,2019年)は,悪性新生物(27.3%)と血管の病気である心疾患(15.0%),脳血管疾患(7.7%)を合わせると50%となり,生活習慣病であるこれらの疾患の予防が大きな健康課題であること
を示している.「小学校学習指導要領(平成29年告示)体育編」では,その内容である「病気の予防」で,「生活習慣病など生活行動が主な要因となって起こる病気の予防には,適切な運動,栄養の偏りのない食事をとること,口腔の衛生を保つことなど,望ましい生活習慣を身に付ける必要があること.」を示している.生活習慣病は,幼い頃からの生活習慣の積み重ねがその発症や症状の進行に影響を与える疾病であり,生活習慣の改善が発症や進行の予防に大きく関わっている.その一方で,子どもたちにとっては,「遠い先(大人)の話」,「今の自分とは関係のない話」,「死」に直結する「怖い病気」として受け取られる傾向にあり,扱いの難しい内容でもある.

「生活とからだ」を軸にして学ぶ保健の授業
 小学校では,3年生から保健の授業が始まり,その第一単元が「健康な生活」である.ここでは,「心も体も調子がよい状態」である「健康」の保持増進には「運動,食事,休養及び睡眠をとることが必要であること」を学ぶ.この学習が高学年の「病気の予防」につながっていく.
 概して,保健の授業では,道徳的・しつけ的指導と適応主義的(「健康生活の実践」を即時的なねらいとする「生活化」「習慣化」「行動化」を強調する)指導の傾向があった.ときに,「~しないと,このようなことになる」という怖さを強調した指導になったり,情報の羅列であったりする場合もある.「健康習慣の形成」のみを強調した学習の限界は,症状や望ましい生活行動等の解説や対処法の伝達に留まりがちであり,健康行動を促すことにのみ主眼が置かれ,健康に生きる主体者としての能力や知恵を育むことへの着眼が薄くなってしまいがちである.
 このような保健の授業に対し,私たち(宮城の研究の仲間)は,子どもたちを「からだの主人公」に育てるために次の2点を大切にして「生活とからだ」を軸にした授業づくりを行ってきた.
 それは第一に,生活レベルの課題をからだの問題として問い直す発問の開発により疑問を誘発し,それが子どもたち自身の問題意識になるようにすることである.第二に,「対話」として話し合う前に,子ども自身が自分のからだや生活と対話する(問い直す)ことを大切にし,他者の考えや経験と照らし合わせながら考えを深めた上で,科学的な事実と出会わせることである.発問により子どもたちの内なる疑問を引き出しながら,自身の生活経験やからだとの対話,他者の経験や考えとの対話を生み出し,納得と気づきのある理解に導くことで,自らの意思で自分の行動を変え,からだと健康の主体者としての意思形成を図っていくことを重視してきた.
 
「遠い先の病気」について解説する指導から「自分の未来を健康に生きる知恵」についての学びへ
 子どもたちは,健康の保持増進のために「運動,食事,休息と睡眠」が大切であることは何度も耳にし,分かっている(つもりになっている).しかし,「運動,食事,休息と睡眠」がなぜ大切なのか,そのときからだの中でどのようなことが起こっているのかあまり考えたことがないし,生活や経験と結び付けながら納得のある理解をしている場合も少ないのが現状である.
 当日の報告では,健康に生きることに関わる子どもたちの生活,経験を発問により引き出しながら,からだのしくみやはたらきを実感的・科学的に学び,その世界をくぐらせながら納得の伴った理解に導くことを目指した授業の実際について提案したい.それは,「(子どもにとって)遠い先に起こるかもしれない病気」の解説を聞く時間ではなく,「未来を健康に生きる知恵」を子ども同士,そして教師と子どもが共に磨き合う時間の創造でもある.