The 67th Annual Meeting of the Japanese Association of School Health

Presentation information

市民公開シンポジウム

オンデマンドプログラム » 市民公開シンポジウム

幼小児期・若年期からの生活習慣病予防

コーディネーター:八谷寛(名古屋大学大学院医学系研究科国際保健医療学・公衆衛生学),佐藤祐造(名古屋大学名誉教授,前愛知みずほ大学学長)

[OSY-3] 小中学生を対象とした生活習慣病予防のための健康副読本教育について〜多機関が協働する,茨城県筑西市・秋田県井川町における副読本活用事業の紹介〜

佐田みずき (慶應義塾大学衛生学公衆衛生学・筑波大学社会健康医学)

Keywords:健康教育,生活習慣病,減塩

はじめに
 生活習慣病の発症には壮年期から高齢期の生活習慣のみならず,学童・思春期から若年成人期,さらには幼児期からの生活習慣の影響も大きいと考えられている.小児期から成人期以降にまで至る切れ目のない生活習慣病予防対策として,さまざまな組織・団体が地域ぐるみで健康づくりに取り組んでいる茨城県筑西市と秋田県井川町での事業を紹介する.
 両地域では昔から,食塩の摂り過ぎによる高血圧,さらに脳卒中が多い地域として,減塩を中心とする脳卒中対策が進められてきた.その一環として,市町の教育部門,保健部門(保健師,管理栄養士等),学校現場の教員,大学研究機関等が協働で,健康副読本を作成し,小中学校において副読本を使用した授業を実施している.副読本には,地域の健診データや健康づくりの取り組み,生活習慣病の説明や生活習慣病予防のための生活習慣・食習慣等のチェックシートを組み込んでいる.副読本教育は,児童生徒本人への生活習慣病予防に関する知識の定着や行動変容を促すとともに,児童を通じてその家族への波及効果を得ることも目的としており,生涯を通じた健康づくりのための取り組みの一例である.

茨城県筑西市における事業
 茨城県筑西市では,平成17年の市町村合併時から市内全小学校において,健康副読本を使用した授業を継続している.この事業は合併前の旧協和町で昭和59年度から開始し,合併後に市内全域に拡大された.授業の効果検証のため,使用後約5年経過した中学2年生,約10年経過した新成人を対象に質問票調査を実施した結果,合併前から副読本授業を実施していた地域の生徒では,授業を受けなかった地域の生徒に比べ,数年経過した後も減塩等の知識がより定着していることが明らかになった.一方で,副読本授業を実施していた地域の中学生を対象にした質問票調査
の結果から,学年が高くなるほど,好ましい生活習慣を行っている生徒の割合が低下する傾向が認められた.中学生に対しても健康教育を維持・強化するため,令和2年度からは市内全中学校を対象とし,中学生向けの副読本を使用した授業を開始している.

秋田県井川町における事業
 秋田県井川町では,令和元年度より副読本を活用した減塩を中心とする健康授業を義務教育学校において開始している.また,児童生徒・保護者を対象に質問票調査や尿検査を毎年実施しており,日頃の食生活(特に食塩の摂り方)を家族で振り返る機会にしてもらうため,減塩のための食事の工夫等のアドバイスを付け,個別の結果返しを行っている.これらの調査・検査は,授業の効果検証としても実施しており,減塩等の知識や食塩摂取等に関わる食行動の経年的な変化を追跡し,健康副読本教育のさらなる拡充のためのエビデンスを蓄積していく予定である.

まとめ
 小児期から成人期以降にまで至る切れ目のない生活習慣病予防対策の一環として,健康副読本を活用した小中学生への健康教育を実施している.副読本の作成には,市町の教育部門,保健部門,学校現場の教員,大学研究機関等が携わり,地域のデータを組み込み,学校現場で活用しやすい内容になるよう協議を重ねてきた.事業の実施・継続には,副読本を使用した授業時間の確保,教員の異動による担当者の入れ替わり等が課題であるが,地域間・内での情報交換・研修会・公開授業等の実施を通して,現場での活用気運を高める工夫を行ってきた.また,副読本の内容や調査・検査結果に保護者へのメッセージも組み込み,児童生徒に加え,保護者の知識・行動への波及効果を図るとともに,その検証を進めている.今後も多機関が協働して事業を継続すると共に,長期的な効果検証を研究することで,児童生徒やその家族を取り巻く生活習慣病予防対策を実践していきたい.