The 67th Annual Meeting of the Japanese Association of School Health

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大会長講演

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学校保健,その原点に立ち返る

Sat. Nov 6, 2021 9:30 AM - 10:00 AM LIVE配信第1会場

座長:森岡郁晴(和歌山県立医科大学教授・第68回学術大会長)

9:30 AM - 10:00 AM

[PL1] 学校保健,その原点に立ち返る

講師:大澤功 (愛知学院大学教授・第67回学術大会長)

〈プロフィール〉
1983年 名古屋大学医学部卒業
1990年 名古屋大学総合保健体育科学センター助手
1995 年~1996年 米国タフツ大学医学部内科臨床判断部特別研究員
1999年 名古屋大学総合保健体育科学センター助教授
2005年 愛知学院大学心身科学部教授

Keywords:キーワード:学校保健 健康管理 健康教育

 我が国の学校保健の歴史は明治5年(1872年)の学制発布に遡ることができる(当時は学校保健でなく学校衛生であった).つまり学校教育の始まりと同時に学校保健活動が始まった.当時まず問題になったのは伝染病(感染症)対策であった.また,学校環境衛生も問題となり環境や設備が規定された.さらに,活力検査として健康診断が開始され,健康管理が行われることになった.これらの展開とともに,学校医,学校看護婦(養護訓導)等の制度が設置された.その後は保健教育(健康教育)の推進や学校保健法(現学校保健安全法)等の法的整備が進み,組織的にも学校保健活動が強化されていった.こういった学校保健活動の歴史を見ると,感染症対策を中心とした健康管理,安全を含む学校環境整備,そして健康教育が基本であり,その実践の中心が養護教諭である.
 私が学校保健と関わり始めたのは,「大学生におけるスポーツ傷害の実態」と題して名古屋大学保健管理室を受診した学生のデータをまとめて発表した昭和63年(1988年)の第31回東海学校保健学会(佐藤祐造学会長)からである.その後,平成2年(1990年)に名古屋大学総合保健体育科学センター助手となり,名古屋大学の学生と教職員の健康管理に携わるようになった.さらに,平成4年(1992年)に開催された第39回日本学校保健学会(安藤志ま学会長)のお手伝いをしたことで,学校保健において指導的立場にみえた多くの先生方と話をすることができた.その結果,学校保健に関する研究や若年者の健康教育等に関心を持つようになった.そして,平成17年(2005年)に愛知学院大学心身科学部健康科学科に着任し,養護教諭や保健体育教員の養成に従事するようになり(学校法人愛知学院の学校医・保健センター所長も兼務),また,日本学校保健学会の編集委員(現在は編集委員長)や理事(現在は常任理事)も務めることとなって,学校保健の現状と将来を考えざるを得ない立場となった.
 学校保健が始まった時代における子どもの健康課題は主として感染症と低栄養であった.当時は経済的に貧しい家庭が多く,国民皆保険制度もなく,医療機関も少なかったために,現在のように容易に医療機関を受診することができなかった.したがって,学校保健は,社会的弱者である子どもの健康を守るために大きな意義があった.ところが,経済的に豊かとなり衛生環境も改善し,子どもの健康課題が変化し,学校保健の役割が変わってきた.近年は,児童生徒のいじめや不登校などの心の問題(自殺を含む),発達・発育障害,薬物乱用,アレルギー,小児期からの生活習慣病対策や肥満,あるいは痩身の問題等,子どもたちの健康課題は多様化し,増加していると指摘されている.
 実際に学校現場ではこれらの問題が,次々と並行して発生し,その対応に追われる毎日となっている.こういった状況では,我々はついつい眼の前の問題の対処に気を取られて,本質を見失うことがある.しかし,学校教育の始まりと同時に学校保健活動が始まったということを忘れてはならない.学びの原点は心身の健康であり,その活動の主体が我々学校保健関係者である.